下書き Sai☆Magica



「『小学生の子供が大量破壊兵器を手にし、それが何をか知った上でそれを使おうとした』..そんなことはあり得るはずがない…..」
調査官
「だが、その在りえないことが起きてしまった….そんな漫画みたいな事件が...」


プロローグ


2020年
 この日、世界は一変した。 
 世界各地で、人間を襲う謎の怪物が出現。それは場所を択ばずに発生し、次々と人間を襲い、そして街を破壊し始めた。各国の警察と軍が対応に追われる中で、この謎の怪物と戦う少女たちが目撃された。色とりどりの衣装を身に纏い、衣装同様に装飾された武器を振るい、不思議な力を使う少女たち。いつしか、SNSを通じてこの少女たちは「魔法少女」、怪物は『魔女』と呼ばれ始めた。
 この呼び名の発端となった極東の島国――日本でも例外なく、この国の軍隊――自衛隊と魔女との戦いは全国各地で起こっていた。
 そんな中、大量の魔女が関東の大都市の一つ『神浜』に向けて移動しているのが確認される。日本政府は防衛省にこの事態に対処することを命じ、統合幕僚監部はこれを掃討するために統合任務部隊を編成した。

(アニメ第一話)

宝崎市内を走る一本の路線、高架式の線路の周囲には自然との調和をテーマに築かれた街並み――屋上に緑の庭園が造られたビルディングが立ち並ぶ――が広がっている。

(いろは との遭遇から翌日)

自衛隊の朝は国旗掲揚から始まる。
陸上自衛隊上浜戦闘群の駐屯地は神浜市東部の遊園地跡

に存在した。
現在は、楽園を形作っていたアトラクションや出店などは跡形も残っておらず、遠くからでも見える観覧車だけがその名残である。
 そんな夢の残骸を取り囲むように、車両やテントが整然と並べられていた。
 今はまだ駐屯地というより野戦築城といったほうがしっくりくるものの、指揮官や隊本部のオフィスなどはプレハブが使われている。隊舎やシェルターなども目下建設中でいずれは本格的な駐屯地になるだろう。
 そんな駐屯地の中央に設けられた広場で、遊園地の名残である観覧車の前に立った2本の手製のポールの間に、朝食とベッドメイクを終えたばかりの曹士や幹部たちが整列していた。
 5人の隊員がポールの隣に立ち、ラッパ手の演奏とともに4人の隊員がきっちりと折り畳まれた国旗を広げて紐に取り付け、国旗がロープにひかれてポールを登っていく。
 国旗が風にあおられて翻るまでの間、整列した自衛官たちは挙手敬礼でそれを見守った。

 朝礼式ののち、長江3尉は群情報隊本部へ出頭するように命じられ、情報隊本部のオフィスがあるプレハブへと向かった。
 大き目のプレハブ。引き戸には木製の立て札があり、黒く太い書体で『神浜戦闘群情報隊本部』と書かれている。
 長江は強く裏拳で2回ノックした。
中から返事。
「入れ」
戦闘帽を右の脇に挟んで戸を引いて中に入った。
「失礼します」
 中は小さな建設会社の事務所や学校の職員室のようで、事務用のデスクが並びその上にはパソコンが置かれ、そのほか筆記具や書類を収めたファイルが並んでいる。唯一の違いは座って仕事をしているのが迷彩服を着た自衛官ということだろう。
 中に入ると、戸を閉めて頭を10度下げて一礼(無帽時の敬礼)。
「失礼します。長江3等陸尉、情報隊長深見2等陸佐に命じられ参りました」
「おう、来たか」
オフィスの奥、入り口から右手の壁際の席から、呼んだ本人―情報隊長の深見2等陸佐が応じた。
「こっちに来い」
長江は彼のデスクの前に来た。
彼のデスクの上には大量の書類が散乱し、その背後には神浜市全域の地図が貼られている。
 神浜戦闘群情報隊は神浜に関するあらゆる情報を収集し整理することを任務としている。

(市内に情報収集のために展開した長江の小隊)

――車窓から見える景色
 いつもと変わらない様子で街を行き来する人々。
 自分たちが常に戦闘状態にはいている中で、彼らは普段と変わらない様子だった。
 
こんなアニメあったなぁ――。確か押井守監督の劇場版「パトレイバー2」だっけ……。

つい先日も〈魔女〉との戦闘があったばかりだというのに、普通に生活している人々。
街の人々は呑気なわけでは無い。そこには「生活」と「仕事」という切り離せない事情があった。
〈魔女〉がまるで蜜に吸い寄せられる虫のように神浜市に集まりだしてからというもの、街を去る住民は少なくなかったが、それでも多くの市民は街に残っていた。
 本来ならば街から逃げ出すべきであり、自衛隊もその方が戦闘に集中できる。しかし、果たして避難するにしてもどこに逃げるべきなのか?
そのあと仕事や生活はどうするのか?
 この国の国民保護法が常に抱える問題の一つだった。
 専守防衛を掲げながらも、国内が戦場となる事を想定していない。特に内戦じみた状況などなおさらだった。
 これには政府だけではなくこの街の人々とその仕事先――官や民を問わず同じだった。自治体も自然災害ならともかく、こんなモンスターパニックは想定外で民間企業についてもどうすればいいかわからず、当面は営業を続けるしかない。街の東側の大東区は更に深刻だった。昔ながらの職人や町工場が多いので西部や中央以上に生活と仕事が直結しているのだ。
 結局、みんな生活のために街を出ることが出来ず、市民が行き来する市街地で完全武装の自衛隊が行動し時に戦闘を行う羽目になってしまっている。

 想定する状況は、基本的に着上陸の阻止で、戦闘が起きている地域の住民はすでに避難しているという想定で訓練している一般部隊の隊員たちにはこの状況はキツかった。

 神浜戦闘群の編成にあたって、水陸機動団や空挺、第40普通科連隊、国際活動教育隊など市街戦の研究・訓練を行っている部隊から訓練は受けたが、それでもやりにくいことには変わりなかった。
 シリアなど、中東の紛争地域の町も意外とこんな感じなのかもしれない。
日常を生きる人々の隣で、常に〈戦場〉とそこに生きる者(兵士)たちがいる……。

(第一次神浜駐屯地攻防戦ー大東区会戦)

 銃口初速にして秒速約数百mの89式普通弾が文字通り空気を切り裂いて闇夜を突き抜けていく。額に金糸で蛾の触覚のような刺繍がある黒いフード付きの外套に身を包んだ少女たち――黒羽根はそれを音と銃弾が顔のすぐ横を通り抜けていく感覚で味わっていた。既に、本拠地であるホテル・フェムトホープを出た時の高揚感は無い。それらは、銃弾と迫撃砲の弾着により既にかき消された。
「魔法少女の解放」という大義に加えて、

第1部8章あたり


 携帯式無線機の送話器をひっつかみ、スイッチを押して全部隊に情報を送った。かなり混乱した状況であるため、ある程度の方式や手順は無視。所属だけを言い必要な情報だけを叫ぶように言った。
「こちら第3偵察隊より全部隊へ、緊急通達。
敵は白と黒のフードを被った魔法少女だ。それ以外は撃つな!
繰り返す、敵の着装は白と黒のフード。それ以外は撃つな!」


撃たれても立ち上がるマギウスの翼。
銃口初速920m/sで発射される5.56mm弾を受ければただでは済まない。肉体にめり込めば
すでに、

 耕は物陰に身を隠し、伏せた状態で銃を構えながら呟いた。
「おかしい......。何発かは当たっているはずなのに、なぜ倒れない?」
傍らの いろは が説明した。
「魔法少女は自分の痛覚を常にある程度セーブしてるんです!しかも、魂をソウルジェムに移しているから……」
「1発や2発撃たれても平気ってわけか!」
まるで伊藤計劃(けいかく)の「虐殺器官」みたいだと思った。
あの小説に出て来た近未来の米軍特殊部隊や民間軍事会社(PMC)のオペレーターたちはナノマシンと投薬で痛覚を制御することにより最低限の痛覚だけを残し、動きを鈍らせることは無く下半身を失うほどの重傷を負っても戦い続けられたが、この様子だとアレに近いことも出来そうだ。
 だとすると、あの小説通り『ハンバーグになるまで弾と火薬を叩き込むしかない』ことになる。
 隣にいる いろは は無言だった。ちらりと視線を向けると、口を両手で抑えている。
 長江は初めて『絶句』というものを見た。
 見れば、他の魔法少女たちも似た様なひどい有様だった。
 青ざめたり、吐きそうになっている。
 無理もなかった、彼女らにしてみれば自分たちの見たくもなかった一面や、魔法少女の真実の一端を最悪の形で見せられたようなものだからだ。

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