見出し画像

亀歩当棒録004.三宅島で子どもに叱られた話(1999年7月)

 初めての三宅島は噴火の前年だった。タイドプールの長太郎池で磯遊びをしているうちに,いつのまにか島の子どもたちと一緒になっていた。人見知りせず話しかけてくる幼い女の子を喜ばせてあげようと,ヤドカリを何匹もGETして得意になって「ほら見てごらん」と見せびらかすと,意外にも「ちゃんと元いた場所に返してあげるんだよ」とたしなめられてしまった。小さな子どもが自然や小さな生きものの命を尊ぶ姿勢を身につけているということへの驚きったら。

 さらににその女の子はこう続けた。

 「悪いことしたらバチが当たるからね」

 思わず言葉を失うわたし。何と単純明快で力強い倫理観だろう。誰も見ていなくても,お天道様は見ていらっしゃる。厳しい環境にある島の生活者ならではの,自然=神さまへの処し方なのだろう。

 その女の子とは縁あって夜に再会した。訪れた日は御笏神社の天王祭の日で,祭りで賑わう境内を散策していると,遠くから家人に向かって「おねぇちゃんだ!」と抱きついてきた子がいた。昼間の子だった。いちど会っただけなのによくぞまぁ…感心するやら嬉しいやら。

 そのあと1年後に大きな噴火があって,4年半近くにわたる全島民の避難生活があって,観光者であるわたしが再び三宅島を訪れたのは9年後の2008年。もちろん女の子とはもう会うことはなかった。いまも島で暮しているのだろうか。

 「悪いことしたらバチが当たるからね」

 あのときの女の子の言葉をときどき思い出す。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?