第11回毎月短歌 個人的8選(『毎月短歌の本 2024年 6月号』掲載分より)

はじめに

第11回毎月短歌(『毎月短歌の本 2024年6月号』掲載分)の全ての現代語短歌に目を通しましたので、「いう人」として個人的に印象に残った短歌を8首紹介し、感想を付記しておきます。完全に短歌素人の意見ですので、見当違いなところもあると思いますがご了承ください。なお、「いう人」というのはとあるプラットフォームに投稿された短歌の中から気に入ったものを発信する人のことを指します。簡単に言うと「好きな短歌発表ドラゴン」のことです。詳しくは下記のWebページを参照してください。

ちなみに何故8首という中途半端な数なのかというと、全部良すぎて絞り切れなかったからです。noteなのでそこら辺はフリーダムにやらせていただきます。

個人的8選

劇場版エピソードオブタラバガニにはエビ役で出演します/畳川鷺々

上の句がパワーワード過ぎて思わず選んでしまいました。こういうインパクトのある単語を作れるのも一つの才能だと思ってます。少なくとも一作品くらいはこういうおもしろ短歌を紹介したかったのです。

きみのこと 忘れるためのバカンスにきみが居たらと 想ってしまった/浅葱体温

こういう経験をしたことはもちろん無いのですが、まるで自分が体験したんじゃないかと錯覚するような物凄い説得力とリアリティを感じました。スペースの使い方も独特でセンスを感じさせます。切ない。好きです。

君と行ったあのラーメン屋も今はなく冷やし中華がまだ始まらない/汐留ライス

今回短歌を選定するにあたって最初は作者を見ずに印を付けてあとで見返してみたのですが、汐留ライスさんの作品になんと5つも印を付けていました。好みってあるんですね。どれも良い作品でしたがnoteで紹介するのは1作品のみとさせていただきます。「冷やし中華始めました」の文言はネット文化で何かと面白おかしくいじられがちですが、それをこういうエモい感じに仕上げられるのはさすがの一言です。

紫外線99%カットして1%を初夏と呼んでる/真朱

真朱さんの短歌もやはり複数個印を付けていました。5月号でも配信で紹介させていただきましたが、叙情的で素晴らしい短歌をたくさん書かれている方です。お名前はましゅさんと読むそうです。これも「紫外線99%カット」という化粧品によくある文言を、思わずちょっと考え込んでしまいたくなるような短歌に仕上げています。私たちが感じている本物って、思っている以上に作られた本物なんですよね。動物園で檻越しに見るライオンみたいな。いい例えになっているか分かりませんが。

君がまだ自覚してない初夏の微かな日焼けに気付いてしまう/ヤマメ

関係性オタクにはたまらない作品です。相手が気づいてないことを先に気づくのって相当好きじゃんっていうね。こういうの好きです。

飛行機の影がプールにとらわれて二十五メートルの夏の標本/宇井モナミ

実際に見た光景を詠んだ訳ではないものと邪推していますが、もしそうだとしたらよくこんな情景を思いついたなあと感心しました。プールはもちろん夏っぽいんですけど、飛行機もなんとなく夏のイメージですよね。バカンスと結びつくからでしょうか。

カルピスのコップを倒したのをミケのせいにした日からずっと嘘吐き/とかげまろぅ

とかげまろぅさんも先月のnote記事で紹介させていただきましたが、センス抜群の短歌をたくさん創作されている高校生の方です。嘘って必要悪なんですけど、一度でも吐いてしまうとその後ずっと隠し通さなきゃいけないっていうめちゃくちゃ重い制約を課されるんですよ。だから人はみな嘘吐きのまま後ろめたく生き続けています。それを思い出させてくれるいい短歌ですね。

ああそうか 選んだほうを正解にするため君はゆくのか 春を/マノチハル

これはもう人の生き方そのものみたいな短歌で大好きです。人生は正解かどうか分からない選択をずっと突き付けられ続ける無理ゲーなので、せめて「選んだほうを正解にする」生き方をするしかありません。最後に「春を」が付いていることにより、進学とか就職とか、そういう人生における大きな分岐点の選択なんだろうなと感じさせます。その余韻がまたなんとも切なく響く短歌です。

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