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東海豪雨のお客さん

2000年の東海豪雨の時、僕は某フィットネスクラブで働いていた。

土地の低い名古屋西部に位置する場所だったので、出勤途中で車が浸水。運転席、助手席両方のドアから水が入ってきて、足元はずぶ濡れ。それでも車は止まることなく何とか駐車場にたどり着いた。

フィットネスクラブ周辺も浸水していて、膝のあたりまで水に浸かるところもあった。館内もいわゆる床上浸水で営業どころではない。モップや雑巾、ありったけのタオルで床を拭くのが朝イチからの仕事だった。

そして何より驚いたのが、一人、また一人とお客さんが来るのだ。長靴を履き、カッパを着て、中には脛の辺りまで水に浸かりながら自転車を押してくる人もいる。近くの川の堤防が決壊して氾濫している状況でジムに来るのかと信じがたい思いだった。

「今日はちょっと営業できないんです…」とお断りするたびに残念そうにザブザブと浸水した道を帰って行くお客さんたち。「家が大変でさあ、帰って片付けでもするよ」と言う人もいて、当時はまだ20代で現役の選手だった僕にはこんな非常事態でも運動をやりに来るお客さんの気持ちがまったく理解できなかった。


台風が近づいて大雨の警戒が出されている今日、強風、土砂降り、雷の中、わざわざ瑞穂競技場のジムに行った。もちろん傘をさしてもずぶ濡れだ。

習慣とかライフワークというものは簡単には揺るがないんだなと思った。これをやらないと1日が始まらない。始まらないということは1日が終わらない。

24年前の東海豪雨の時、水に浸かりながらも自転車を押して来たお客さんの気持ちがようやくわかった。


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