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散文たち

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エッセイやらコラムやら、小さな散文たちです。
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2020年8月の記事一覧

眠れぬ夜のカシニョール

眠れない夜、何をするか? 音楽を聴くか、読書をするか、ホットミルクを飲むか……はたまた足掻かず暗室にじっとしているか。私の最近の流行りは画集を眺める、です。勢いで買ったは良いものの手を触れずにいたカシニョールの画集、それを真夜中に眺めます。 花と緑を愛する画家、女性しか描かないジャン=ピエール・カシニョール。彼の描く自然は情緒に溢れ、艶やかな色彩は心地よい鑑賞体験を齎します。豊かで棘が無く、デフォルメの中に生命力を感じさせる質感、そしてその自然の中に佇むソリッドな女性……

演劇好きにおすすめの古書店 5選

本棚に隙間があると本を買い、隙間がないと本棚を買い、隙間があると本をと繰り返す内に寝床が無くなっている短いシカです。 今回は演劇に絞った観点で選んだ、個人的におすすめな東京の古書店を5店、紹介したいと思います。資料集めに、趣味の開拓に活用頂けましたら幸いです^^ 〇西荻窪『古書音羽館』先ずはディープなカルチャーが集う街、西荻窪の『古書音羽館』です。扱っている演劇書の数はそう多くはありませんが、他の古書店では見つからないマニアが喜ぶ書籍が並んでいます。お洒落な内観で、つい長

知らない誰かの数分の暇つぶし

ほんの少し忙しい日々を過ごして更新をナオザリにしていました。習慣を少し手放すと、再開が何だか億劫になってしまいますよね…。 思えば再開をする勇気って、人によってはとても大きなものですよね。私の人生、途中で投げ出してしまったことが沢山あります。プルーストの読破や、趣味のお菓子作り、翻訳の勉強や日々の運動…小さなものから大きなものまで、一度断ち切られてしまうと、そのやる気を結びなおすのに随分時間が掛かってしまいます。その膨大な労力や疲弊を想像しては嫌になり、放り出してしまうので

文化の結び目を作る『翻訳』という仕事

そういえば先月頭、翻訳をしていました。イギリスの劇作家の短編戯曲です。殆ど趣味に近い素人仕事でしたが、楽しかったです。同時に辟易もしました。短編でこの疲労感、長編を訳すとなると…ゾっとします。昔、尊敬する翻訳家に言われました。 『(日本において)いい翻訳者とは、誰よりも多くの日本語を知ってる人です』 語学を学ぶ私にとっては目から鱗でした。同時に『日本語も更に勉強しなきゃなのか…』と絶望したものです。『好きな本を原文で読み、それを私の筆で世間に知らしめる!』という青き欲求は