忍殺TRPGソロリプレイ:【ワナビーズ・ファースト・アドベンチャー】

◇前置きな◇

 すっかりおなじみのソロリプレイである。皆様は8月初頭に行われた公式ソロアドベンチャーを覚えているだろうか。これだ。

 初めてのモータル・ソロシナリオ……様々なアーキタイプのアウトローが生まれ、ビズに挑戦し、ドアノブとかに負けて帰った……ドラマ……

 かくいう私も新たなモータルを作り出し、ネオサイタマに解き放った。こいつだ。

名前:クロミ・ハイト
【カラテ】:6
【ニューロン】:2
【ワザマエ】:4
【体力】:6
【精神力】:3
【脚力】:3
アーキタイプ:カルト
回避ダイス:4
装備:ウイルス入りフロッピー、フランベルジュ

 なんと並のニンジャよりもカラテが強い。このアンタイブディズム・ブラックメタリストがツチノコ・ストリートに赴いた。ニューロンが低めなので、まだ ABBMとしてもニュービーであり、タフな反ブッダ戦士を装っているのだろう……そういうことにした。

 そんなわけで、リプレイしていく。ヨロシクオネガイシマス。



◇本編な◇


 重金属酸性雨は今日も道行く人々や露店に区別なく降り注ぐ。ここはツチノコ・ストリート。ネオサイタマにおいても有数の治安の悪さで有名な『掃き溜め』だ。

雨音に負けてなるかとばかりに電子商業音楽のベース音ががなり立て、違法オハギ屋台の前ではヤクザ同士が剣呑なアトモスフィアを漂わせる。通りに面したIRCモテル四階では、ザゼンを決めたハッカーが冷笑とともに喧騒を見下ろし、思い出したように神への定時の崇拝を捧げる。

 そんなストリートを一人の少女が足早に突っ切って行く。傍で行われる零落リアル・ヤクザのケジメ・ショーには目もくれない。檻に入ったバイオスモトリをショック・ヌンチャクでいたぶっていたモヒカン女が目ざとく少女に目をつけ、小さく口笛を吹いた。気合いの入った格好だったからだ。

 黒のライダースーツはあちこちがリベットとチェーンで補強され、唯一露出した顔は死体めいた白化粧。背中にはまだ新品と思しきフランベルジュだ。厳しい出で立ちの少女は、誰にも舐められてなるものかと言わんばかりに周囲を睥睨しつつ先を……KRAAAAASH!ペケロッパ!

回避判定(難易度:HARD)
4d6 → 1, 1, 3, 5 成功!

 突然の破砕音と、頭上から降ってきた電子合成悲鳴に少女は顔を上げる。目があった。それはペケロッパ・カルトのハッカーだ。ハッキングに失敗し、ニューロンを焼かれたのだろう。LANケーブルヘアを振り乱し、狙いすましたように少女のもとに落下してくる! アブナイ!?「ヴォイド!」「アバーッ!?

 ハッカーが金切り声を上げた。その胴体に歪んだ刃がめり込んでいる。フランベルジュだ。咄嗟に抜刀した少女が切り払ったのである! ワザマエ! 「アバーッ!?」刃とともに地面に叩きつけられたハッカーが電子断末魔を上げ、死んだ。ナムアミダブツ。

 ケジメ・ショーの観客たちやバイオスモトリ虐待モヒカン女たちの視線が少女に集まる。ベース音だけがやかましく鳴り響く中、少女は眉間にしわを寄せたままでフランベルジュを引き抜き、血で張り付いていた万札を自然な動作でポケットに突っ込んだ。そして睨むように周囲を見返す。野次馬たちは恐れ入ったように視線をもとに戻した。

 少女は肩をいからせ先を急ぐ。……もし目敏い読者がいたのであれば、少女の頬を伝って落ちる一筋の汗に気づいたかもしれない。

(びッ……くりしたァ……!)

 少女の胸は実際高鳴っていた。不慮の事態と初めての殺人に。彼女の名はクロミ・ハイト。カナガワの楽曲を聴き。その思想に共鳴したアンタイブディズム・ブラックメタリスト……の、ニュービーである。

 ネオサイタマ・ハイスクールのケンドー部に所属していた彼女は、来るべきセンター試験にストレスを溜め込んでいた。中央大会決勝まで進んだケンドーも未来に向け捨てざるを得なかった。こんなもので自分の人生が定められてしまう。なんとひどいことか。そんな鬱屈した心にカナガワの反ブッダ思想がするりと染み込み、持ち前のアクティブさとケミストリ反応を起こしてしまったのだ。

 彼女が向かうのは、零細ヤクザクランであるキルエレファント・ヤクザクランの事務所。どうにかして反ブッダ戦士としてのハクをつけたいと考えた彼女は、ほとんどデスパレートな交渉でビズの約束をとりつけたのである。

(こんなことでビビッてらんないよね……最終的に敵はブッダなんだから。ガンバロ、クロミ!)

 内心で自身を励ましつつも、彼女はしかめ面を維持したままストリートを進むのだった。


◇◆◇◆◇


 「今売れています」「お安い」「オスモウだ」の電子カンバンが掲げられた薄汚いビルディング。一見するとオスモウショップ以外の何物でもない……正直、クロミも最初は場所を間違えたかと思った……この場所こそが、キルエレファント・ヤクザクランの事務所である。

「ドーモ。ヤマヒロです」

「ドーモ。クロミです」

 強面の若ヤクザに連れられたの応接室で待っていたのは、さらに強面のヤクザだった。おそらくかなり上級のヤクザだろう。クロミは怖気つきそうになる心を脳内カナガワBGMで鼓舞し、自分なりの強面を装った表情と低く抑えた声を保つ。

 それとなくソファに座るよう促したヤマヒロは、テーブルの上に身を乗り出した。

「この雨の中、ご足労いただきアリガトゴザイマス。……早速だが今回の依頼だ。うちのシノギのひとつが電脳薬物の販売ってのは知ってるな?」

 クロミはしかめつらしく頷く。もちろん初耳だ。だがそれを顔には出さない。ナメられるからだ。

「その売り物……違法メガデモなんだが、それを作らせてたハッカーから突如納品が途絶えやがった。IRCにも応答がねえ……ナメやがって」

 怒りをにじませるグレーター・ヤクザ。クロミは思わず身震いしそうになる。彼女はこうした非合法な職業の人間と間近で話す機会を持たなかったのだ。所詮はハイスクールの学生である。

 それでも気を取り直し、クロミはしゃがれ声で問う(地声ではない。カナガワを聞いて真似したデスヴォイス……のつもりだ)。

「そのハッカーに罰を下せと?」

「ア? ……ああ、いや! 今回はそこまでしてもらうつもりはねぇ。そもそもまだトンズラしたかもわからねえからな。……見ての通り、うちのクランはすっかり小さくなった。若えモンも他の仕事があって動かせねえ。つまり人手が足りねえんだ」

「成る程」

 世知辛い話だ。不景気なのはヤクザも変わらないというところだろうか。妙なところで社会の現実を見た気がして、クロミはややげんなりとする。

 それに気づいたか気付いていないか。ヤマヒロは締めくくる。

「今回あんたにはハッカーの様子見を頼みたい。……トンズラの準備だのなんだのしてるようだったら、それこそあんたの言う『罰』だ。よろしく頼むぜ」


◆◇◆◇◆ 


「ハァー……怖かった」

 ヤクザの事務所を後にしたクロミは、とあるマンションを訪れていた。件のハッカーの住居である、らしい。流石はツチノコ・ストリートの集合住宅といったところか、そこかしこから怒声や騒音が聞こえてくる。多少びくつきながらも、クロミは廊下に転がされていたマグロの生首をささやかに蹴飛ばし、隅へと追いやった。

(け、けど今回の仕事なら大丈夫そうだ……ひょっとしたら病気で応答できないだけかもしれないし。そうじゃなくても……)

 クロミは背負ったフランベルジュの柄に触れる。そうじゃなくても相手はハッカー。武器を持っている自分の方が強いはず。殺すことだって……ここでクロミはペケロッパを斬殺したことを思い出し、唾を飲み込んだ……簡単。な、はずだ。

「ここか」

 クロミはとある部屋の前で立ち止まる。ヤマヒロから教えられたハッカーの居場所だ。彼女は油断なく周囲を見渡し、人影がないことを確認すると屈み込んだ。こんな場所に住んでいる人間だ。当然のごとく鍵をかけているだろう。

【ワザマエ】判定(難易度NORMAL)
4d6 → 1, 3, 6, 6 成功

 つけていたヘアピンを外し、物理錠前に差し入れる。もしものときのためにIRCで調べていた知識を総動員し……カチャン。解鍵に成功。

「ヤッタ」

 漏れた言葉は驚くほど乾いていた。今更ながら、クロミは自分が引き返せないところまで来ているのを感じていた……だってこれは犯罪だ。だが、それがどうした。彼女はカナガワのライブ映像を思い出す。彼らに追いつくために、こんなところで躊躇していられるものか。

 用心深くドアノブを開ける。中は暗く、静かだ……不気味なほどに。

(留守なのかな)

 首を傾げつつも、クロミはなるべく音を立てないよう、カメめいた慎重さで一室ずつ部屋を改めていく。そして最後にたどり着いたのは、UNIXとLANケーブルだらけの暗い部屋。どうやらハッカーの仕事部屋らしい。ここにいなければ外出中か、それとも……逃亡しているかだ。

(いなかったら、少し待ってみたほうがいいのかな……帰ってくるかもしれないよね……?)

 部屋を見回したクロミはすぐに異常に気づき、身体を強張らせた。まず窓。ガラスが割れ、風が室内へ重金属酸性雨を運んでいる。留守の線は今消えた。

 そして次に視界の端に飛び込んできたのは火花だ。UNIXが壊れて……壊されている? クロミは電気をつけようとスイッチを入れたが、暗いままだ。仕方なくライトで部屋の隅を照らす。

「……アイエッ!?」

 そこに足を投げ出した人影を見て、彼女は慌てて飛び退いた。ハッカーの死体かと思ったからだ。しかしよく見ると違う。それは単なる一台のオイランドロイドだ。額でちらつく火花が、両目に流れる焼けた機械油の黒い涙を照らし出す。その様にクロミはアワレと少しばかりの美を感じた。

「……強盗? 強盗に入られた、のかな」

 クロミは独りごちる。自分の思考を口に出して整理する、一種のマインドセットだ。だが本当にそれだけなのだろうか。この妙なアトモスフィアはなんだろう。彼女は見る。オイランドロイドの額を。そこに突き刺さる、黒い鋼鉄の星を。

NRS判定→アーキタイプ:カルトのため自動成功

「スリケン……!?」

 クロミは目を見開く。然り、それはどうみてもスリケンだ。スリケンを用いる者といえば……ニンジャ! ニンジャしかありえない! だが実在するというのか!? ニンジャが!

 喉が砂漠のように乾き、指先が小さく震え始める。クロミは自分の身体の異常を他人事のように観察し……唾を飲んだ。

「……だから、なんだ。ブッダがいる。カナガワがジゴクに落とすと歌っているんだから、いる。だったらニンジャだっているでしょ。しっかりしなさい、クロミ……!」

 ナムサン。それは一歩間違えば狂人の戯言となる、極めて幼稚な推論だ。しかしこの場においてクロミの精神を守ったのは、その破綻しかかった論理であった。

 彼女の思考は次に移る。このスリケンは確実にハッカーと関係がある。重要な証拠だ、回収しなければ。深呼吸し、クロミがスリケンへ手を伸ばした。そのとき。

『侵入者を……排除します……ドスエ……!』

「エッ!?」

 オイランドロイドの両目の焦点が合い、クロミを見た。そして勢いよく立ち上がり『イヤーッ!』額から火花を散らす必死の形相で掴みかかってくる!

回避判定(難易度NORMAL)
4d6 → 1, 2, 4, 6 成功

「い、イヤーッ!?」

 クロミは尻もちをつく。その頭上をオイランドロイドの両手が通過。クロミは慌てて後方へ転がり、立ち上がると背中のフランベルジュに手をかけた。このままでは自分の身の危険!

「オ……オメーン!」

【カラテ】判定(難易度NORMAL)
6d6 → 1, 1, 2, 3, 5, 6 成功

 彼女は向かってくるオイランドロイド向け、大上段からフランベルジュを叩きつけた。波打った刃は天井を擦り、機械の胴体にまで食い込む!『ピガガーッ!?』オイランドロイドが膝をつき……そのまま動かなくなった。両目の焦点が再びぼやける。

「ハァーッ……あ、危なかった……アッ」

 クロミは思わず声を上げる。とっさのこととはいえ、ケンドー部のときのクセであのときのシャウトを出してしまったことに思い至ったのだ。あまりにもブラックメタリストらしからぬウカツ。彼女の顔が赤くなる。

 ……いや、今はそれどころではない。クロミは気をとりなおすように膝をついたままのオイランドロイドを見下ろす。この部屋で起きた出来事に筋道が立ってきた。まず、窓から侵入者……ニンジャが現れ、ハッカーを攫った。このオイランドロイドはそれを妨害しようとして額にスリケンを受けたのだ。そうにちがいない。

 彼女が最大の証拠であり、証人だ。クロミは決心したように頷くと、オイランドロイドを担ぎ上げ、背負う。そしてオイランドロイドの両目から流れた機械油の涙でライダースーツが汚れることも気にせず、そのまましめやかにハッカーの部屋を後にした。

◇◆◇◆◇

 ……数十分後! キルエレファント・ヤクザクラン事務所!

「フゥーム……成る程、強盗ねぇ……」

 ヤマヒロは唸り、テーブルに置かれたオイランドロイドの残骸とクロミの顔を交互に見やる。クロミはしかめ面を保ち、低い声で言った。

「ウム。疑うのであれば、そのオイランドロイドの記録を洗うがいい。もっとも、その目がなにを写していたかまでは保証できないが……」

 内心では綱渡りの真っ最中だ。この油断なきグレーター・ヤクザが果たして自分のような小娘の言葉を間に受けるかどうか。本当ならスリケンがあればよかったのだが、あれはこちらに来る途中に落としてしまったようだし……いや、スリケンなど本当にあったのだろうか……? 

交渉判定(ダイスの目が5以上で成功)
1d6 → 5 成功!

 ややあってから、ヤマヒロが唾を飲む音が聞こえた。

「……わかった。今回は助かったぜ。受け取ってくれ」

 そして手渡された封筒を、クロミは彼女なりに威厳を保った動作で受け取る。ヤマヒロは額の汗を拭うと、立ち上がってオジギした。クロミもまたオジギを返すと、黙って応接室を後にした。

(よ、よかった……うまくいった……!)

 ビルの階段を下りながら、クロミは胸をなでおろす。やや後味の悪い結果とはなったものの、非合法なビズを自分一人の力でやり遂げたことには変わりない。これで多少はハクをつけられた……

 不意に、階段を上がってくる足音が響いた。クロミは慌ててアンタイブディズム・ブラックメタリスト然とした姿勢とアトモスフィアを取り繕い、登ってきた相手を静かに威圧しながらすれ違う。相手の服装に、ふと違和感を覚えた。

(……ミコー? なんでこんなところに?)

 内心首を傾げつつも振り返ることはしない。シツレイだからだ。クロミはそのまま階段を降り、ツチノコ・ストリートへと出て行った。

 ……すれ違ったミコー装束の女は、クロミの背をじっと見つめていた。隻腕であるのか、右の袖が虚しくはためいている。クロミの姿がストリートへ消えるところまで見守ってから、ミコーの女はキルエレファント・ヤクザクラン事務所へと向かっていった。



◇リザルトな◇

 リプレイ化にものすごく時間がかかってしまった……なんにせよブラックメタリストのクロミ、生存。見事【万札】6を獲得したのでした。やったね!

 先日の「騒霊の館」リプレイも早めにnote化しないと埋もれてしまいそうだなあ……などと危惧しつつ、今後はクロミのようなアウトローや騒霊の館の大学生のようなモータルでも遊べるソロシナリオも作ってみたいところだ。

 ここまで読んでくださった皆様、アリガトゴザイマス! 気が向いたらまたやるよ!

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