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シカク運営振り返り記 第4回 香山さんとの出会い(たけしげみゆき)

この連載は、大阪にあるインディーズ出版物のお店・シカクが、ワンルームの住み開きで商品3つの状態からオープンし、だんだんお店っぽくなっていく過程を振り返るお店運営エッセイです。
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 私が香山哲さんに初めて出会ったのは、シカクがオープンして3ヶ月ほど経つ頃だった。

 香山さんは漫画やゲームを作るマルチクリエイターだ。私が出会った時は東京に住んでおり、その後兵庫や大阪などで数回の引越しを経て、現在はドイツに住んでいる。
 彼のことを一言で説明するのはとても難しい。強いこだわりと独特な作風を持つ作家であり、世の中や人々がよりよい道へ進めるように声を発する啓蒙家であり、反骨精神に溢れたアナキストであり、面倒見がよく慕ってくる人は放っておけないリーダー的存在でもあり、お茶目で言葉遊びが大好きなおもしろお兄さんでもある。
 そしてまた、私が香山さんから教わったことや受けた影響も、たくさんありすぎてとても一言では説明できない。


 香山さんは元々Bの知人だった。二人が初めて出会ったのは神戸の「トンカ書店」という古本屋。(現在は名前が変わり、同じく神戸で「花森書店」として営業している)
 当時香山さんは大阪に住んでおり、「ドグマ出版」という個人出版レーベルで「漫画少年ドグマ」というミニコミ雑誌を作ったり、自身の漫画や気に入った作家の単行本を発行したりしていた。その創作活動のかたわら、ミニコミづくりにまつわるあれこれを語り、作家たちが交流するイベント「パブリッシュゴッコ」をトンカ書店で開催していた。
 そのイベント当日のある日、たまたま初めてトンカ書店を訪れたBが、たまたまそこに売っていた香山さんの本を購入したところ、「今日このあと作者がイベントをやるんです」と店主から聞き、たまたま暇だったので参加した。そのイベントでBは初めて「ミニコミ」という文化の存在を知り、関心を持つようになる。

 その日から香山さんのファンになったBは、香山さんの活動をずっと追いかけるようになった。当時香山さんは創作や社会に対する自身の考えを日々ブログに綴っており、大学生のBはそれを毎日読み、知的で鋭く、しかし穏やかな香山さんの価値観に刺激を受けまくっていたそうだ。
 その後香山さんは東京に引っ越し、それから少ししてシカクが開店するのだが、Bはオープンした当初から「香山さんをイベントに呼びたい」と頻繁に口にしていた。

 これは開店後に気付いたのだが、どうやらBがシカクを始めた目的の中には「香山さんともっとお近づきになりたいから」というのがかなりの割合であったようだ。一ファンとしてではなく、対等な仲間になりたがっていた、というか。香山さんには人を惹きつける不思議な魅力があるので、お近づきになりたい気持ちはよくわかる。が、そのために店をオープンするというのは、なんというか、おかしい。ストーカーがターゲットの家の近くに引っ越すのに似ている感じがする。狂信的である。
 まあ、結果的には本当に香山さんと仲良くなれたし、シカクがなければ今も一ファンのままだっただろうから、Bの思惑は正しかったといえるのだが。

 とにかくそのような経緯があり、シカクがオープンして3ヶ月後の2011年8月6日、Bの念願が叶って香山さんにトークイベントを開催してもらうことになった。
 タイトルは「漫画家が趣味でやってる原発研究-その成果と報告-」。

 2011年3月の東日本大震災と原発事故の直後、反原発デモやいろいろな活動の勢いが急激に強まり、人々の意識もがらりと変わったことは皆さんもご存知だろう。だが周囲の話を聞くに、東京と大阪ではその様子はまったく違っていた。
 デモは行われていたものの東京のように誰でも気軽に参加できるような雰囲気ではなく、「放射能に対抗できるよう祈りを込めて麻布を染めるワークショップ」とか「放射能に強い身体を作る食事づくり教室」みたいな記事がやたらと目に飛び込んでくるようになった。それは言ってみれば「恐怖につけこんだ放射能ビジネス」のようで、ちょっと不気味だった。それに参加した人たちが活発に記事をシェアするものだから、「放射能とか原発とか積極的に言ってる人はちょっとヤバイ人」みたいな雰囲気がほんのり流れていた(この辺りの感じ方は環境によって全く違うと思うので、あくまで私がいた環境においての主観です)

 私とBはそういう雰囲気に辟易しており、とはいえ原発に無関心でもいられなかったため、もっとフラットな目線で、知識のない人や温度が高くない人でも参加しやすい勉強会のような場を設けたいと考えていた。
 一方香山さんは、東京に引っ越した直後に地震とその後のパニックを体験していた。それから原発の仕組み、メリットとデメリット、日本に原発が造られた過程や社会に与える影響などを独自に研究し、研究結果をミニコミや漫画アプリにまとめて発表していた。
 
 そのようにお互いのやりたいことのタイミングが一致したため実現したのが、上述の「漫画家が趣味でやってる原発研究-その成果と報告-」。
 タイトル通り、香山さんの原発研究の成果報告と、原発をどう捉えるかについての話だ。

 説明だけでずいぶん長くなってしまったので、今回はいったんここまで。
 次回からは香山さんがそこでどういう話をしたか、そしてそれから香山さんと過ごした日々で私がどういうことを受け取ったかについて書こうと思う。

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