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ピントが合っているものを花と呼ぶことにする

FLOWER という iPhone のアプリがある。アプリを起動すると、2 種類の小さな花束が表示されて、どちらかを選べる。選んだことも忘れたころ、会社から帰ると郵便受けに花が届いている。箱を開けて、花瓶の水に栄養剤を溶かし、花を飾る。2 週間ほど経って、花に元気がなくなってくると、アプリでまた新しい花が選べるようになっている。たったそれだけのことなのに、たったそれだけのことによって、僕は部屋に花を飾るようになった。

花を買うには技術がいる。まず、花屋に入る技術が。それから、花を選ぶ技術も。誰も教えてくれないのに身につけなくてはならない技術が、この世界には多すぎる。これは、どうやって花を手に入れるのかという話ではなく、アクセシビリティと人権の話だ。どんなにささやかなことでも、できない人がいる。そのことを、想像できるかどうか。

カメラには、レンズの焦点距離、光の量、そしてピントをあわせる変数がある。変数の値を決めることは、なにを見るのかを決めること。だから、ファインダーから見つめる被写体の像は、見ることそのものを自覚的にさせてくれる。写したものよりも、写さなかったことのほうがリアル。ぼやけてかたちがはっきりしなくても、ある部屋で、ある夜に、たしかに咲いていた。その花を、僕だけが見ていた。

これは、2019 Advent Calendar 2019 の 5 日目の記事でした。昨日は kzys さん、明日は bastei さんです。

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