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屍句会報番外 2020年8月13日(木)

余興「上五を埋める」

盆休みの閑散とした居酒屋に約20名が詰めかけた屍派納涼会。そこでひとつの余興が行われた。

 ○○○○○約束だけが甦る

参加者各自、この句の上五を考えるというもの。
引用された句は家元・北大路翼の最新句集『見えない傷』に所収。
30分ほどの時間を与えられ、それぞれが上五を考え提出した。
発想の似通った「皆死んで」「秋に死ぬ」の2つは予選落ちとし、それを除いた11の上五が3ブロックに分け投票にかけられた。
(◎が決勝進出)

ブロック1
 橋の下  ◎
 義足換え
 こんにちわ
 しみけんの
 たらればの

ブロック2
 サシ飲みの
 知覧に行く
 首塚に  ◎
 くわばらや
 昨日した

ブロック3
 月へ行く
 ゆめ花と
 守れない
 忘れたい
 しぼり染め
 ハトにエサ ◎

そして、元の句の上五と合わせ、発案者の名を明かし4者で決選投票。
北大路の上五が当然勝ち残ると思いきや…

 橋の下/響子
 首塚に/とみ
 ハトにエサ/武田海 ★
 蝉を捕る/北大路翼

他の上五と異なる肩の力の抜け方が場の笑いをさらった、あまり句会には顔を出さない美術作家の武田海が優勝を飾った。

 ハトにエサ約束だけが甦る

その後も宴は続き、「どれ出した?」などの話題で盛り上がった。

句評 木内龍

ブロック1
橋の下というのは子供を拾ったり、中学生が喧嘩をしたりというネガティブなイメージがつきまとう。どのような約束か想像が膨らむ。
義足換え、は新しい義足に交換するタイミングだろうか。「お前の脚になってやる」とか「パラリンピックに出よう」とか、そういう約束なのかもしれない。
こんにちわ、は元気が良い。明るい不意打ちに頬が緩む。
しみけんの、は何だろう。そっちのネタはしみけんが言うと何でも正しいように聞こえてしまう。ちゃんとゴムは着けようねっていう約束かな。
たらればの、は無能力を棚に上げる言い草。「宿題やったらゲーム買ってね」
約束も叶うことなく事故死してしまったか。

ブロック2
サシ飲みの、口約束だけでフェードアウトした男女関係が思い浮かぶ。
知覧に行く、は特攻隊に行く約束だろうか。どんな思いで終戦を迎えたか。
首塚に、は平将門の怨念のようなものを感じる。生前果たせなかった野望が実現するという意味だろうか。
くわばらや、は首塚同様、怨念を感じる。恐ろしいことが起こらないように唱える「くわばらくわばら」。
昨日した、はシンプル。「した」は約束に掛かるとすれば、約束以外は甦らないという事になる。すると相手は死んだのか。

ブロック3
月へ行くは面白い。M澤さん以外の人が言えば大風呂敷も良いところだ。
一番近い星なのに金を積んでも届かないから、冗談でありロマンチックである。
ゆめ花と、約束を三つ並列にしたところに少女漫画のような美しさを出したかったのだろうか。それをやるには中途半端である。
忘れたい、はシンプルだが重い。たしかにそうだよねという納得感が強い。きっと誰もがこういう「忘れたい約束」を抱えているのだろう。
しぼり染め、は手ぬぐいなどを取り出したときに、独特の柄を見て思い出した約束をいうのだろうか。
ハトにエサは一見面白さが強いが、その姿には想像が膨らむ。例えばホームレス男性が若くして妻を亡くした際、「ちゃんと働くから」と言った事が心に突き刺さるという情景。何も成し遂げられなかった人生を思い返す辛さがある。

優勝者の一言

優勝者の一言で、2020年8月17日より開催される「武田 海×南澤 孝見 2人展」の告知をした。

期間  2020年8月17日(月)〜9月1日(火)/24日(月)、31日(月)休廊
時間  12:00 – 20:00/最終日17:00迄
会場  DIGINNER GALLERY

ウェブサイトはこちら↓

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