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【書評】歯内療法 成功への道 CT時代の臨床根管解剖―三次元で捉える解剖学的情報と病態―

月刊『日本歯科評論』では,当社発刊本の書評を随時掲載しております.2022年4月号掲載分の「HYORON Book Review」を全文公開いたします(編集部)

阿部 修/東京都武蔵野市・平和歯科医院


原点に回帰し,さらなる高みへ!

本書は日本の歯内療法を牽引する臨床医であり大学臨床教授でもある著者により,2013年に発刊後ベストセラーとなった『臨床根管解剖』を皮切りに,壮大なスケールで始まった「歯内療法 成功への道」シリーズ(全7冊)を締めくくる形で上梓された一冊である.

シリーズはその後,『根尖病変』(2013年),『偶発症・難症例への対応』(2014年),『抜髄 Initial Treatment』(2016年),『感染根管治療 Retreatment』(2019年),そして『治癒に導くエンドの秘訣』(2020年)が発刊.わが国における第一線の臨床医と研究者たちによって執筆がなされ,そのそれぞれが名著として大きな支持を集めていることは周知のとおりである.特にシリーズ最初の「臨床根管解剖」は,発刊から約9年が経過した現在においても私のバイブルであり,ことあるごとに拝読している.

本書『CT時代の臨床根管解剖』には同じ「臨床根管解剖」という名が付けられてはいるが,その内容は膨大な数のCBCT関連研究によって明らかにされた新しい知見と,それに基づく治療上の注意点等が,著者の豊富な症例画像と共に詳しく解説された新しい臨床根管解剖書となっている.CBCTの普及が急速に進んでいる昨今において,その応用における今後の道標となるものと考えられる.

本書は4つの章から構成されており,第Ⅰ章にCBCTから読み取れる歯と歯周組織の解剖学的情報として,CBCT画像を臨床応用するために必要な基本的知識から観察のポイント,読影および診断精度等の情報,さらに根管の見逃しの問題やパーフォレーション等の偶発症観察時のコツなど,日々の臨床に直結する内容が解説されている.

そのうえで,第Ⅱ章と第Ⅲ章にはそれぞれ上顎と下顎の歯種別の根管解剖,そして第Ⅳ章に上下顎智歯の根管解剖が示され,そこでは上下顎すべての歯種に起こり得る特殊形態や偶発症を回避するための具体的なアドバイスが解説されている.

さらに,全編を通じてCBCT画像を臨床に生かすための重要なヒントとなるコラムが数多くちりばめられている.それらは実に54本の論文要旨であり,論文の内容とデータがコンパクトにまとめられている.論文はアジア圏で行われた研究が数多く引用されており,同じアジア人として類似した体型を有する私たちの臨床に反映しやすい情報が集められているという細かい配慮がなされているのだ.このコラムは大変読みやすく,本書の大きな魅力となっている.

膨大な数の論文を基にCBCTの有効性を示しつつも,著者は根管解剖をしっかりと学ぶことにより,たとえ複雑な歯根形態を有する歯であっても適切なデンタルエックス線写真で十分な診断が可能であるとも述べている.そして,本書にはデンタルやパノラマエックス線写真の読影のコツも解説されている.それはCBCTが急速に普及する現状において,まずもってCTありきとならないよう,その応用には厳密な被曝管理が必要であるということへの警鐘であると受け止めた.

科学技術がいかに進化しようとも,歯内療法 成功への道は解剖に始まり,そして解剖に回帰するという,著者の基本を重んじる臨床医かつ教育者としての姿勢に深い感銘を受けた.CBCT装置保有の有無にかかわらず,すべての歯科医師に読んでいただきたい必読の書である.

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◆『歯内療法 成功への道 CT時代の臨床根管解剖―三次元で捉える解剖学的情報と病態
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