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序:公的医療保険下におけるCAD/CAM冠・CAD/CAMインレー

『日本歯科評論 別冊2023/CAD/CAM冠・CAD/CAMインレー―失敗しない保険治療のために押さえておきたいポイント』を5月1日に発刊しました! まだご覧になっていない方々のために「序文」をウェブ版として公開します.ぜひ,ご一読ください.(編集部)

CAD/CAM冠保険収載のインパクト

2009年9月に先進医療専門家会議(現:先進医療会議)で先進医療として認められ,4大学の病院で先進医療としてスタートしたCAD/CAM冠がその5年後,2014年4月の診療報酬改定時に公的医療保険に収載された.
CAD/CAM冠は,高い機械的強度を有するCAD/CAM冠用レジンブロックの開発,ならびにデジタルデンティストリーであるCAD・CAM技術の進歩,さらにCAD/CAM冠を装着するための接着材料の研究と術式の確立によって臨床応用に繋がった.
またCAD/CAM冠の保険収載は,患者サイドの審美的要求の高まり,歯科用金属を原因として発症した金属アレルギー患者への対策,また金やパラジウムなどの素材価格の上昇による経済的な問題などを背景としており,12%金含有金銀パラジウム合金の代替材料の選択肢の一つとして評価できる.

過去から現在に至るまで,歯科では医科と比較して,先進医療で認められた治療法は遥かに少なかったこと,さらにCAD/CAM冠は大学病院など特定の医療機関のみで行われる治療法でなく,歯科保険医療機関が届出を行えば歯冠補綴方法として選択できることから,小臼歯限定ではあるがCAD/CAM冠の保険収載が及ぼしたインパクトは大きく,保険収載に繋がるいわゆる「先進医療ルート」の存在を広く知らしめることとなった.
一方,保険収載のためにはCAD/CAM冠用材料(CAD/CAM冠用レジンブロック)を特定保険医療材料として認可する必要があり,その認可を行う中央社会保険医療協議会(以下,中医協)・保険医療材料専門組織(以下,保材専)についても広く認知されたのである.

医科関係者に比較して,多くの歯科医療関係者は保険収載について十分に理解していたとはいえなかったが,CAD/CAM冠の保険収載は歯科界において,その後に影響を与えた.
すなわち,日本歯科医師会,日本歯科医学会ならびに所属学会,歯科材料メーカー,歯科系総合商社などにより,新規技術の保険収載に向けて積極的な対応が始まったといえる.
たとえばファイバーポスト(ファイバーポスト併用レジン支台築造),象牙質レジンコーティングなどの新たな医療技術が保険に収載される際,CAD/CAM冠の保険収載で学んだことを実践することができた.

素材価格の上昇とCAD/CAM冠の適用拡大

さらに小臼歯限定であったCAD/CAM冠も同様の流れで保険適用の条件が拡大されてきた.
2017年12月に期中収載された下顎第一大臼歯へのCAD/CAM冠は,大臼歯用のCAD/CAM冠用材料を保材専で可とされ,期中収載されたものである.
このことは日本歯科医学会所属学会,歯科材料メーカー,そして厚生労働省の協働によって行われたといえる.

その後,2020年初頭からの新型コロナウイルス感染症による影響を背景に金やパラジウムの素材価格の上昇が起こり,金銀パラジウム合金の保険告示価格と実勢価格の乖離,いわゆる「逆ザヤ」問題が起こった.
さらに2022年2月に起こったロシアのウクライナ侵攻を背景とし,金やパラジウムの素材価格が上昇した.中医協は,この状況に対応するため,告示価格と実勢価格を一致できないまでも,その差を少なくするために複数回,随時改定の仕組みを変更した.
本来は保険告示価格と実勢価格は一致していることが望ましいが,現状では困難である.

その解決のためには異なった視点が必要となり,金銀パラジウム合金に代わる材料による修復,補綴が望まれた.
その代替材料の筆頭がすでに保険収載されていたCAD/CAM冠用材料であり,CAD/CAM技術を用いたCAD/CAM冠であり,さらにCAD/CAMインレーの保険収載の流れとなった.
これらの保険収載時,残念ながら信頼性の高いエビデンスがあったとはいえないが,上記を背景にして比較的速いスピードで評価され,今後も適用拡大されることが予想される.

執筆時直近となる2022年6月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2022(骨太の方針2022)」において,「市場価格に左右されない歯科用材料の導入の推進」 が記載されている.
したがって,金銀パラジウム合金の代替材料の開発,保険収載の流れは今後も続く.
これら代替材料による技術は,それらを患者・国民に治療方法として正しく実践するために,歯科医師は新たに学ばなければならない.

本書のねらい

本書の前半は,基礎編としてCAD/CAM冠・CAD/CAMインレーが保険収載に至る経緯,臨床での現状,支台歯ならびにCAD/CAM冠・CAD/CAMインレーの接着,レジンブロックの評価などのCAD/CAM冠・CAD/CAMインレー周辺の基本情報をまとめた.

後半は,臨床編として症例選択, CAD/CAM冠の支台歯形成,CAD/CAMインレーの窩洞形成,技工操作,各歯種に応じた臨床例など,臨床におけるCAD/CAM冠・CAD/CAMインレーの選択,そして選択後の臨床手順などを紹介している.

さらに主なCAD/CAM用レジンブロックを市販している各社から製品の紹介をしていただき,最後の項で高橋英登先生によるCAD/CAM冠・CAD/CAMインレーの将来展望を掲載した.

本書は企画時点で, CAD/CAM冠とCAD/CAMインレーの現時点におけるすべてを網羅することを目標とした.
世界で広く採用されているとはいえないこれらの間接法による修復物・補綴物が,わが国の公的医療保険の下,多くの患者・国民にとって価値あるものとする責務は歯科サイドに課せられている.
本書がそのための一助になることを願っている.

編著者 坪田有史

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