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【書評】『要介護高齢者の口腔病変アトラス-訪問歯科診療で遭遇する多様な口腔病変症例集』

月刊『日本歯科評論』では,当社発刊本の書評を随時掲載しております.2023年7月号に掲載の「HYORON Book Review」を全文公開いたします.(編集部)

森田浩光/福岡歯科大学 成長発達歯学講座 障害者歯科学分野・教授,総合歯科学講座 訪問歯科センター・教授(兼任)

歯科訪問診療の現場で

本書のページをめくっていくと,歯科訪問診療を含めた高齢者歯科診療を行っている歯科医療従事者であれば,「この病変は見たことがある」という症例が多々あることに気付くであろう.超高齢社会の現在,2025年に完成を目指す地域包括ケアシステムの中で,歯科における重要な役割の一つとして歯科訪問診療の充実が挙げられる.

厚生労働省における平成29年の患者調査においては,歯科訪問診療を行っている居宅および施設における歯科診療所の割合はそれぞれ14.6% および15.0% にとどまっており,今後も歯科訪問診療への積極的な参入が期待されている.なお,歯科訪問診療の現場ではベテラン歯科医師だけでなく,若手歯科医師が多く関与しており,必ずしも要介護高齢者に特有の口腔病変の知識やそれに対する診査・診断,治療経験に長けているとはいえない.

また,歯科医師の指示のもとで歯科衛生士のみで居宅や施設にて訪問歯科衛生実地指導や居宅療養管理指導を行う場合も多いことから,本書に掲載されている口腔病変に歯科衛生士が最初に遭遇することも想定される.その際に,早期対応のため,歯科衛生士にも要介護高齢者に特有の口腔病変への知識が必要であることはいうまでもない.

このような現状を踏まえ,経験の浅い若手歯科医師や歯科衛生士にとって,本書は典型的な口腔病変の写真とわかりやすい解説に加えて,それぞれについての治療法やワンポイントアドバイスなどの臨床のヒントがふんだんに織り込まれており,教育ツールとして利用することはもちろん,明日からの臨床に役立つ病変の知識と対応法がすぐにわかる良書である.

一方で本書は,う蝕や歯石沈着,口腔カンジダ症をはじめとする口腔感染症などの基本的な歯科疾患を含め,多種多様な要介護高齢者に特有の口腔病変の写真が満載されていることから,患者家族はもちろん,医師や看護師,さらには介護士など他職種への説明時にも応用できるという利点もある.

教育現場で

歯学部学生の教育現場においては,昨年度に新たな歯科医学モデル・コア・カリキュラム(令和4年度改訂版)が公表され,さらなる臨床実習の充実が望まれているが,高齢者歯科学実習・歯科訪問診療実習において実際に遭遇する症例は限られていることから,典型的な症例を臨床実習で網羅することは不可能である.したがって,高齢者歯科学等での教育現場においても,本書は補助ツールとして活用するのに最適である.

高齢者歯科医療に必携の1冊 

私共福岡歯科大学訪問歯科センターでは,高度急性期病院や地域の急性期病院から高齢者介護施設,居宅に至るまで様々な場所で診療を行い,超急性期から終末期まで多様な病期・病態の患者さんの診療を行っているが,本書の症例は,われわれが遭遇するほぼ全ての口腔病変をカバーする内容となっている.

以上の理由から,学生・研修歯科医,さらにはこれから歯科訪問診療を始める歯科医師・歯科衛生士にとって,本書は必携の口腔病変アトラスであり,1医院に1冊は所蔵して教育や臨床の場で活用されることをお勧めします.

関連リンク
『要介護高齢者の口腔病変アトラス-訪問歯科診療で遭遇する多様な口腔病変症例集』(阪口英夫 著)

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