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20年前寸尺詐欺に遭った話

皆さんは詐欺に遭ったことありますか?

私はあります。

思い起こせば20年前、地元京都を離れ、花の都大東京に上京したばかりの頃でした。

憧れだった都暮らしをスタートさせたはよかったものの、溢れるほど多くの人がいる東京に知り合いはほとんどおらず、毎日がホームシックでした。

そんな私に、唯一とも言える関わりを持つ人間がいました。
それは定期的に勧誘に来る読売新聞のおっちゃんでした。
20代だった私は何を血迷ったのか、読売新聞を取ることにしました。

月に1度の集金の際、ほんの少しだけ取るコミュニケーションが貴重なほどに人間関係に飢えていたこと
(口座引き落としにはせず、あえて対面での集金にしていました)、
そして『東京で一人暮らしをして新聞をとるオレ』と言う自分に酔い、一人前の社会人の気分に浸れたのが主な理由でしょう。

新聞を読むといっても、せいぜい三面記事とスポーツ欄くらいで、これに毎月数千円も払うのはさすがにもったいないなと思い始めたある日、自宅のチャイムが鳴りました。

「すいませ~ん、読売新聞です。集金に参りました」と、それははじめて見る初老の男性でした。

「いつもの集金のおっちゃんじゃないな。もしかしてお辞めになられたのかな。それにしてもいつもより集金に来るのが早いなー」

と若干の違和感を感じたものの、

「今月はキャンペーンをやってまして!
今日購読料をお支払いいただけると洗剤2パックに加え、なんと東京ドームの巨人戦のペアチケットを差し上げますよ!
巨人戦は人気だから、これをチケットショップに売るだけで、新聞代の元が取れるから超お得。
ただし、今日お支払いいただける場合だけなんですよねー」との事でした。

それは確かにお得だなと人を疑うことを知らなかった私(当時)は、
「じゃあ今日お支払いしますよ。あ、でも財布の中には万札しかないですけど」と快諾。

男性は
「それで大丈夫ですよ。エントランスに止めてあるバイクにおつりがありますから。じゃあお品物とおつり取ってきますね。毎度ありがとうございます!」
と、私が出した一万円札を受け取り、マンションのエントランスまで戻っていきました。


はい、聡明な読者ならもうお気づきですね。


待てど暮らせど、その男性が私の部屋に戻ってくる事はありません。
人を疑うことを知らなかった私(当時)でしたが、この部屋とエントランスを往復するだけで20分もかかるはずがない。

もしや!

と、大慌てで外に出たものの、そこには人っ子1人いませんでした。

やられた…

しかも本来なら3000円の被害で済んだはずなのに、わざわざ自ら被害額を上げるこの情けなさ…

頭を殴られたようなショックを受けました。
それは一万円を失った経済的なことではなく、こんな単純な詐欺に引っかかってしまった自分への怒りでした。

このオレが…

どっちかと言うと騙されるより騙す方だと思っていたこのオレが…

地元じゃ悪の貴公子と名を馳せたこのオレが…

まさかこんな寸借詐欺に遭うとは…

怒り心頭となった私はすぐさま読売新聞社に電話をかけ、
「こんな詐欺に遭ってしまった責任の一端は、御社にもあるはずだ。読売新聞を取ってさえいなければ、自分が購読していることも、犯人にはわからなかったはずだ!」
と屁理屈にもなってないクレームを入れますが、
「まずは最寄りの警察署へ事情をお話しください」
と、至極まっとうな回答。

言われた通りに新宿署に赴き、生まれて初めての被害届を提出するのですが、
日本一忙しい警察機構であろう新宿署が、たかだか一万円の詐欺事件に本気を出すはずもなく、
事情聴取は実におざなりなものでした。

(事実、あれから20年経った今でも犯人逮捕の連絡は来ていません)

怒り心頭から時間が経ち、呆然としている私の部屋に再びチャイムがなりました。

ドアを開けると、そこにはいつも集金に来る読売新聞のおっちゃんが立っていました。

おっちゃんは、
「このたびは誠に申し訳ないです。僕が勧誘したせいで、お客様をこんな目に遭わせてしまって…」と深々と頭を下げられました。

捨てる神あれば拾う神ありとはこういうことか。

もう地元に帰ろうかとさえ思っていたけれど、東京もまだまだ捨てもんじゃないかもなと言う気持ちが芽生えたその時。

おっちゃんは自らの財布を取り出し、

「僕にも生活があるので、全額という訳にはいかないですが…」
と自腹の五千円札を渡してきたのでした。

その一連を見た私は、
思わず涙がポロポロとこぼれ出しました。

人に優しくされた時、
自分の小ささを知りました。
(from「あなたに」/モンゴル800)

涙を流す私を、おっちゃんは温かく抱きしめてくれました。

(5000円はありがたく頂戴しました)

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さてさて、これが私の詐欺事件の顛末でしたが、被害額たかが 1万円でもこれほどのショックを受けました。

昨今のオレオレ詐欺の被害額はとてつもないものと聞きます。

一生かけて貯めた何百万という大金を、騙されて失ったとしたら…
経済的なダメージはもちろんのことながら、どれほどの心の傷を負うのか想像に難くありません。

このエッセイが少しでも皆さんの役に立ち、皆さんの大切な人が、そして何より皆さん自身が詐欺の被害に遭わないことを心の底から願っています!

新聞をとる際は、口座引き落としをおすすめします!

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