自分史的なクリッピング史料

昨今は高齢者というか引退世代にもリスキリングが叫ばれている。個人的には要は勉強する心、独学する心を持てるかどうかだと思う。必要性、不必要云々に思いを巡らせるよりも、今の時代において自分がどういう態度を取るのか?にかかかっている。働く環境で大きなショックを与えたのは生成AIの登場だということは間違いない。

2016年1月13日 日経 経済教室 人工知能は職を奪うか(下)
意思疎通能力、一層重要に 東大教授 柳川範之
2023年7月10日 日経 Analysis エコノミクストレンド
問われるのは「問う力」 東大教授 柳川範之

どちらも柳川先生の執筆。柳川先生の著書も結構読んではいるけど、こうしてコンパクトに先生の考察記事を読めるのは参考になる。先生に限らずだけどこのシリーズの記事のクリッピングはまだまだたくさんある。

まず最初の記事(これはもう8年前の論考)。
ポイントのまとめは次の3点。
・仕事を奪うのはAIやロボット使う人間
・意思疎通や協働能力など社会技能が重要
・変化が速く何歳でも新たな能力獲得必要

コンピューターがルーティンワークを代替していくだろうという考察は従前からのことで驚くべきことでもない。環境変化後の時代に求められる能力は何か?を考える必要がある。ロボットを創るのは人間であり、プログラミングを行うのも、データは従前の人間の営為であるから、ロボットの基礎は人間発だ。ロボット棋士が人間の棋士を破ったという話も人間が創ったロボットが人間を倒したと解釈できる。ロボットが自らの意思を持って人間の仕事を奪うことはない。あくまで代替業務の抽出やその可能性を探る初動は人間がなすことだから、人間が職を奪うのだとも言える。

柳川先生は2つの点を提起している。即ち、これらを使う側は高所得を獲得できる可能性が高く所得格差が広がる可能性が大きいこと、そしてAIやロボットを活用する側に回れれば大いなるチャンスが巡ってくるかもしれないという2点。AIやロボットを活用するには情報と知識が必要になる。もう少し抽象的に言えばコンピューターと人をつなぐ能力が求められると。

柳川先生自身は、AIが労働市場に与える影響や制度を研究されていて、弁護士のような高度な業務と思われているものでも、AIで代替できる業務もあれば、ヒューマンタッチに行わなければならない業務もあるので、そういった分化が進むのではと考察されている。今後はデータを駆使した過去の事象を徹底するにはAIなどの活用は優れているが、全く新しい組み合わせなどの付加価値を創出する仕事はやはり人間しかできないであろうとの見解。

もう一つ対象となる人とのコミュニケーションは機械がいいのかそれとも人がいいのかを問えば、その場で臨機黄変に対応でき引き出しの多い人の方が優れている筈だと。ひと言でいえばこれは社会技能(Social skill)。チームワークなどは人間ならではの能力。但し今後は企業内・組織内にとどまらず、開かれた外の社会との間においても発揮できるコミュニケーション能力が強く求められると。

そして帰結的に人は移動を強いられる。AIに任せられる技能にとどまることなく、自分自身が活躍できる場所に移動しなければならない。変化の速い時代に会社に依存した形でスキルの育成を期待するのは何の保証もない。

働き続けるには新たなスキルを獲得しなければならないというのは至極当然として、労働環境・条件なども制度保証や新たな人事体系・制度で対応する必要も出て労働市場全体の変化も必要である。勿論子どもや若者に対する教育システムの変更も求められる。一つの解決策として文理融合をはかるべきで、AI時代ではそれが顕著になるとも。学校教育は確かに長期的視点にたってという従前のしきたりもあるだろうけど、今後は先を見据えた能力を教育するスタンスが期待される。

さて次の記事は昨年のものであるから、柳川先生の見解も環境の変化とともに変わってきているのだろうか? ポイントは次の3点を挙げられている。
・AI時代に必要なのは問いを立てる能力
・学び直しも質問を磨き上げる力が重要に
・正解に安易に満足しない教育への転換を
AIの進展とともに、少し考察もリニューアルされている。

AIがある程度バリエーションを有しながら回答できるとすれば、質問(問い)の質によって差が出てくる。更には返ってきた回答に対して再質問ができるか、といった問いの力が生成AIが発展した時代には求められている。どうやら先生は、だいぶ生成AIの進展が進み、かなり独創的な回答もできるようになってきたので、人間ならではの創意工夫の領域は狭まってきている。だからこそ差別化を図るためには、問いかけの方にいかなる斬新性や独創性を付与できるかが知的作業の質を高くしてくれるとおっしゃっている。

これはまさしく昨今のバズワード、プロンプトエンジニアリングが重要だということ。この能力は何もAIに関わる時ばかりでなく、個々のイノベーション能力、付加価値創造力を醸成していくことにもなる。自ら問いを設定し、自ら思考していく。正解が前提の問題を解く従来型の力ではない。特にシニア層には十分な知識と経験を前提に、新たな問いを立てそれを提示することが求められている。生成AIこそシニアが活用するチャンスが多いとも。

そしてジュニアにおいてもやはりより重要なのは問いを立てる能力の磨き方だとおっしゃっている。教師のイニシアティブではなく、生徒の自主的な問いづくりに大きく舵を切ることこそが期待される教育メソッドなのだと。それでもジュニア層には深い関心ごとがあるかどうかでその成長も大きく違ってしまうだろうと。子どもたちの関心ごとを大人目線で判断せずその関心事がなぜ自分にとって深みをもたらしてくれるのだろうと思うことが大事だということは言うまでもない。そして導き出した答えに安易に納得しないという態度を涵養すること。これは社内教育でも一緒だと結んでおられるので、概ね全ての人に当てはまる事象だと思う。

やはりAIは想像以上に進展していて、これを活用することそしてその為には問いの力を強化していくことが新たな活路を導き出すことになるという考察に。こうして時間の経過とともに、環境の変化に合わせて、その時々で何が必要となるのか?を考え整理できる力が求められている。自分でもその問いをみつけられるか・・・。

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