自分史的なクリッピング史料

読書にまつわる新聞記事もバリエーションが豊富。評者の書評などを筆頭に色々な定期コラムを交えて新聞紙上では展開されていて。これを読むのも楽しみ。そんな書評を集め始めたのはいつだろうか? 記録として残し始めたのはいつなのだろうか? 何せクリッピングはあちこち散乱しているから正確にはつかめない。でも色々なかたが読書にまつわるコラムや推薦本をあげているところの記事は必ず目を通す。

2012年8月25日 日経 or 朝日(不明) 私のひきだし
生きがい感じる仕事を持つ
作家 黒木亮
2012年10月7日 朝日 思い出す本 忘れない本  共に暮らして生態を理解
ソロモンの指環 動物行動学入門 コンラート・ローレンツ著
サックス奏者 坂田明
2015年5月24日 朝日 虫も一生懸命 同じ生き物
春の数えかた 日高敏隆著
脚本家 大森美香

まず黒木さん。36歳で邦銀から証券会社の英国現地法人、40歳で商社の英国現法を渡り歩き、46歳で作家専業になった、という自己紹介的なテキストから始まる。著書の「巨大投資銀行」でもあらわしたと注釈をつけながら、インベストメント・バンカーは辞める時に一生暮らしていけるだけの金を稼いで辞めるのだと、自身もそれなりに稼いだ上での作家専業としたとある。羨ましい限りだ。ところが「鉄のあけぼの」という作品を書く過程で、岡山県知事だった三木行治の生きざまを知って考えが変わったとしている。それは、三木さんは物欲は皆無で、ひたすら県民の為に尽くし、亡くなった時には、共済組合への借金が40万円あっただけというエピソードに、生きがいを感じられる仕事を持つことが第一で、あとは過分に望まないという姿勢で十分と締めくくられている。小さなコラムであり、与えられた情報でヒットしたのは三木行治という人物の存在。ウィキィによれば「アイバンクを設置して自ら第1号の登録者となり、二人の女性に三木の角膜が移植された」とある。そして「亡くなった時、私財は着ていた服と眼鏡だけだったといわれる」と記されている。40万円の借金返済すらには足りないのかもしれない。それだけ清廉潔白な人がいたのかと関心を寄せた。4期も知事を務めたとあるので、県民の人気はあったのだろう。今の政治家にこういう人はいるのだろうか。

2つめは、サックス奏者・坂田明さんが紹介する本。サックス奏者がなぜと思いつつ記事を読んだ。「ソロモンの指環」は自分も既読。名作中の名作ではないだろうか。昔のTV番組「シートン動物記」を読んでいるような。この本の翻訳は動物行動学の権威・日高敏隆。ローレンツ博士は解剖学や生理学的なアプローチではなく、動物の個体の行動を観察することによって動物を理解しようと試みたことで、新たな境地を切り開いた。ローレンツ博士はハイイロガンの観察による「刷り込み」という概念を発見し、ノーベル賞も受賞することになる。「刷り込み」はやり直しがきかない、リセットがきかないという意味で、ハイイロガンのベビーが初めて見たローレンツ博士は必然的にその親となることの宿命を課せられる。当然、動物たちにも成長過程において学習プログラムは起動して、自ら習う事もできる。ローレンツ博士の知見はのちに上塗り・アップデートされた事もあるけど、新しいものの見方を実践していったというところに価値があり、それをおもしろおかしく書いているところに普遍性があり、それは今でも色褪せることはない。

そして最後は、日高敏隆先生の「春の数えかた」を脚本家の大森美香さんが紹介している。大森さんは、自身脚本の「不機嫌なジーン」というドラマ作品のためにこの本を手に取ったらしい。人間の目から見る傲慢さと動物たちの目から見る人間への卑下な眼差しを感じ取ったと。結局動物たちの行動も合理的であり必然的であるということに気づく。大森さんは読後、動植物への感覚が変わり、青虫を蝶に育てたりと接する態度に明らかな変化があった様子。

動植物へその目を向けるという動きは生物多様性などの利活用もクローズアップされた事もあるし、自然界の未知の力はきっと未だ相当あるんだろうなぁと夢を抱かせてくれるガイダンス本だと思う。自分自身振り返って見ても、この2つの本は再読したいと思わせてくれる座右の書だと思う。

同じ時期に読んだ、手塚治虫の「ガラスの地球を救え」も入れて、この3冊は座右の書として若い世代やその親御さんたちにも読んで欲しいなぁと思う。今となっては新古典的になるのだろうか。刺々しい世の中ではあるけど、何かメンタル・リハーサルにはとてもいいと思う良書たちだ。

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