自分史的なクリッピング史料

昨日の続きで前野先生の考察を振り返り。これまでは、歴史的、経済的、経営的視点で見てきたけど、この⑤からは、先生の研究結果をもとに解説が進められていく。

2020年11月4日~ 日経 やさしい経済学 幸せ中心社会への転換⑤~⑧
慶応義塾大学教授 前野 隆司

経済学者のロバート・フランクは、他人と比較できる財を地位財、比較できない財を非地位財と名付け、前者はカネ、モノ、地位などで、それらによる幸福感は長続きしない傾向があるとの考察。一方、非地位財は、心的、身体的、社会的に良好な状態(ウェルビーイング)が影響し幸福感が長続きするとある。先生たちは、心的幸福の因子分析を行った。

どのような心的要因が幸せに寄与するのか?
これは1980年代頃から多くの研究が進んでいるとあるので、その頃から幸せの目線が違う視点で語られている様子なので、かれこれ40年程度になる。

先生たちによる日本人1500人ほどの調査で、4つの因子が分析された。
・やってみようとする自己実現と成長の因子。
 これはやりがい、強み、成長などに関係する。
・つながりと感謝の因子
 ありがとう因子とも言え、感謝する人は幸せである。また利他的で親切な
 人、多様な友人を持つ人は幸せである。逆に孤独感は幸福度を下げる。
 利他の世界は親鸞みたいだ。
・なんとかなると考える前向きと楽観の因子。
 ポジティブかつ楽観的で、細かいことを気にし過ぎない人は幸せである。
 リスクを取って不確実なことにチャレンジし、イノベーションを起こそう
 とするマインドもこの因子に関連する。
 最近では若い人の起業もクローズアップされているし、イノベーションへ
 のチャレンジという意味ではその勢いは増している印象だ。あくまで印象
 だけかもしれない。
・独立と自分らしさの因子。
 人と自分を比べすぎる人は幸福度が低い。ありのままに、自分の軸を持ち
 ながら我が道を行く人は幸せである。
 我が道を行きたいとは誰もが思っていることだろう。

個人的には、必ずしもつながりがあるということで、幸福度があがるとは思っていない。やはり、バランスだろう。つながりは時としてリスクを伴うものだ。どちらかと言えば、究極は孤独であったとしても、コミュニケーションを積極的に図るということを望んではいない人もいるので、それでも全否定する訳ではない。自分に正直に且つ相手に礼を失することなく、最低限、最小のコミュニケーションが可能であればいいのではないかと思う。

次いで幸せに働ける要因はどんなものなのだろうか?という考察に進む。先生はパーソル総合研究所との共同研究で、幸せな働き方と不幸せな働き方を調査。それぞれ7つの因子を導き出した。幸せの7因子のうち、自己裁量因子や自己成長因子などの他、他者貢献、自らの仕事に対するポジティブ感などが挙げられている。

一方不幸せの7因子には、オーバーワーク因子や、自己抑圧因子、職場環境の不快感、チームワークの不十分性、などの因子があるという。こうした調査結果をあくまでも参考にしながら、幸福感において数値化できない要因もあるという理解を排除しないことも大事だと。今後、益々こうした研究にAIの力が利活用できそうだ。

そして寿命との関連性に考察が移る。当然、幸せな人の方が寿命は長いんだろうなぁ、とこのシリーズの論考からはすぐに推測できる。幸せは原因にも結果にもなるので、幸せに気をつけるという時代になってきたのかもしれないと。結果的には健康・長寿が期待される。

スウェーデンの老年学者、ラーシュ・トーンスタムは1980年代後半に、「老年的超越」という概念を提唱し、高年齢になればなるほど、死の恐怖も減り高い幸福感が得られるようになると分析した。経済的にも40代の頃をピークとして徐々に幸福感は減るのではないかとついつい見られがちであるけど、反対に40代あたりの幸福感をボトム(そうりゃそうだ、中間管理職などは特に子育てやら、配下の者たちとのコミュニケーション疲れなどで疲弊している姿が目に浮かぶ)として、それ以降の幸福感は上昇していく一方だと。

そこから皆で老年的超越を目指すような社会を迎えればよいとの提案がなされている訳だけど、やはり高齢化社会における若者と高齢層の意識的な分断などは存在し得るので、決していいとは言えないけど今後どのようにそれを融合していくべきかを、個人レベル、企業などの組織レベル、或いはパブリックセクターとして行政レベルで、実効性のあるアイディアを議論し、新しい社会の創造が必要になっていくのではないかと思う。

TVを視聴していると移住生活がピックアップされることがある。都会の喧騒を離れ、地方、自然、子育てといった視点で移住者の存在が紹介される。一方で高齢化社会を迎える地方都市ではコンパクトシティー構想によって、都市部に高齢者を集めることによって行政サービスを効率的且つ実効的なものにしていこうという目標を掲げているところもある。どちらも一長一短で、これも幸福の尺度で測るとそれぞれの結論が出ることだろう。何が正解ということはないけれど、個人が深い思いを抱けるようなテーマを考える時間があっていいと思う。


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