電車

 久しぶりに電車に乗った。
普段乗ることがない私にとってそれは目的がどうであれ、特別なものだ。
ツルツルとした手触りの切符、固くも、柔らかくもない独特な座り心地の椅子、心地よい車両が線路の繋ぎ目を通る時の振動
何をとっても私を高揚させる。

 普段乗っている人ならばその時間、ニュースを読んだり、勉強に使うのかもしれない。
しかし普段電車に乗らない私にとってその空間は「非日常」であり、なにをするか決まっていない、自由な時間である。自由!なんと神秘的で、素晴らしい響きを持った言葉だろうか。

 カバンの中でじぃっと私に読まれるのを待っている小説を読もうと思ったそのときだった。私はふと考えてしまった。
それは折角の「自由」を縛ってしまう行為ではないかと。
そう考えるとなにもかもが私自身から自由を奪う行為のように思えてしまった。自由という言葉はあれど自分は他人や自分から縛られている。

 そう考えているうちに電車は次の駅のアナウンスを流し始める。一瞬思考を無理やり止められたようで座席に座り直す。
 しかし思考が一旦止まったことでふと時間通りに動く電車の中に自由があると思い込んでいることの愚かさに気づいた。他の乗客がいなかったら私は高笑いしていただろう。

 なんと自分は愚かなのだと。

 そんなことを考えているといつの間にか目的の駅に着き扉が時刻表通りに開いた。

 この世には自由などありはしないのだ。

私を乗せていた電車が通り過ぎていくのを見送りながら私は少し絶望した。