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フランクリンのチキン・サンド

輪読会でサリンジャーの『ナイン・ストーリーズ』を読んでいます。私にとって初めてのサリンジャー作品です。1回2時間ほどの輪読会で1編を読了するペースで進んでいて、先日3編目の『対エスキモー戦争の前夜』を読みました。

この作品、ひとりで下読みしたときは、さらりと流してしまって、特に心に残りませんでした。文章の意味がわからないわけではないのだけど、そこから何かを感じとれなかったのです。自分はやはり読解力が足りないのだなと、少し落ち込みもしました。

でも、ひとりでは素通りしてしまう言葉や行間の深意を、必ず誰かが気づいて拾ってくれるのが輪読会のすごいところ。順番に朗読して、気付いたことを語り合っているうちに、だんだんと登場人物たちの微妙な心の動きが私にも見えてきたのです。会が終わる頃には、「この小説、好き。ジニーの気持ちわかる...!」とまで思っていました。本当に、輪読会のおかげで新しい扉がどんどん開かれていきます。

主人公は高校生のジニー。ジニーの同級生でテニス仲間のセリーナは、父親の会社で作っている新品のテニスボール缶をいつも持ってきてくれますが、テニス帰りのタクシー代をいつもジニーだけに払わせます。ジニーは日頃から「学校でも最高に食えない子」だと思っているこの同級生に不満を募らせています。
そんな不穏な状況から物語は始まります。

ある日ジニーは、今日こそ貸しを返してほしいとセリーナに要求します。セリーナは、私も半分出していなかった?とか、私はボールを持って来てあげているし、などとごまかそうとしますが、ジニーは具体的な金額をあげてきっぱりと要求します。ギスギスした空気の中、ジニーはセリーナの家に立ち寄り、セリーナがお金を持ってくるのをリビングで待ちます。するとそこへセリーナの兄フランクリンが入ってきます。

このフランクリンお兄さんは眼鏡をかけていて、パジャマ姿で、髪は寝ぐせでくしゃくしゃで、不精髭を生やしていて、そして指にけがをしています。この飾らない、女の子の前でいい格好をしようとかモテようとかいう気の一切ない、純真なフランクリンとの会話を通して、ジニーの心に変化が起こります...

ネタバレなるといけないのであらすじ紹介はここまでにして、このあと出てくる印象的な食べ物の話を書きます。
フランクリンは、テニス帰りのジニーがお腹をすかせているだろうと思い、自分のチキン・サンドの残りを分けてくれます。俺の部屋にチキン・サンドが半分あるんだ。食わないか?ミルクを一杯どう?って。素朴で自然体な人柄がなんとなく伝わってくるような勧め方です。

このチキン・サンドについては、前の晩にフランクリンがデリカテッセンで買ってきたものであること、一口食べたジニーが飲み込むのに苦労したこと、それ以外にヒントは書かれていません。でも私の頭の中はなぜか”サクサクに焼いた食パンでジューシーな鶏肉をはさんだおいしいチキン・サンド”でいっぱいになってしまいました...

これはもう自分なりのチキン・サンドを作って食べないとおさまりがつかないと思い、先日作ったものがこちらです。

皮はパリパリに
ボリュームたっぷり

6枚切りの食パンをトーストして、マヨネーズとからしを混ぜたものを塗り、パリパリに焼いた鶏もも肉とレタスをはさみました。からしが少なかったのか、ちょっとインパクトにかける味にはなりましたが、小説の余韻とともに食べたので心は満足でした…!

この小説にはサリンジャーの戦争批判の精神も込められていて、タイトルの『対エスキモー戦争の前夜』は作中でフランクリンが言った皮肉に由来しています。輪読会での学びや、映画『ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー』を通して、サリンジャーの戦争体験や心の傷が私にも少しずつわかってきましたが、まだまだサリンジャー文学の入口に立ったばかり。『ナイン・ストーリーズ』の残り6編も心して読んでいきたいと思います。


読んでいただきありがとうございます。

 
しじみ

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