寒色

言葉を尽くして生きた上に、雨が降って全て流れていく。街の光が反射されるたび、光が現れて小さく目を細める。色とりどりの窓の灯りが全て暖色。冷たい色は足元にしかない。
よく出来た心、抑制された視線、優秀な存在、遠くの灯り。
小雨のうちは水の流れに規則は無く、やがて本降りになる。みんな同じ所に流れるようになる。そこに立っている。
言葉が上手く使えていないことに一瞬たじろいで。ふらついて1歩下がる。靴裏で水が跳ねる。
深呼吸もできないほど浅い息の中で、それでも深呼吸をする。できるだけ長く、長く。透明になる肺、透き通る風景、嫌気がさすほど情報量が多い光景があって、何も無くなっていく。元から何もなかったように。
ラベンダーの香りを選ばない。大嫌いな香り、大好きな香り。
君は昔のことを語り出す。私達が生まれるよりずっと前の。それは太古の話。僕たちからすればそこには何もなかった。だけど、その時代の存在には全てがあった。
“愛おしい“がない世界で太陽と水温だけがただ暖かった頃、2人で今を待っている時間。
君が生まれる瞬間を私は待っていて、私が生まれる瞬間をあなたは待っている。そうして何もなくなった時太陽と水温だけが、ただ暖かった。
恋の歌をあなたが待ってた頃。
あなたが私を待っていた頃。
私が泣いていた頃。
嫌いな香り。
あなたの恐れを私がみていた頃。
私があなたを待っていた頃。
あなたが笑い出すまで。
好きな香りでいたい。

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