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新水平

 無限に与えられた可能性というものに、あなたは辟易している。どうしたら良いかわからず頭を煮えたぎらせ、その熱さに少しずつ溶け出している瞳がとても、とても青い。とても熱いことがわかる青だけど、そこに冷たさがある。雨の中でも水に溶け込むことのない熱い水銀のように、あなたの瞳は静か溶けていくけど、またそれとは違った形で冷たくもあって。
 そのことを考えても、あなたの頭は特に困惑していない。一番暗くなる時間には家の布団に当たりまえに沈んでいくように、それは驚くことではなくて、どこか当たり前なのだと一人で。きっとあなたの瞳も同じようにそう考えている。瞳に思考する権利を与えるのは酷く危険なことではある。でもそうしたいのであれば誰も止めることなんてできないから、あなたは周囲に、あなたの生きている環境に限ってかもしれない、思考を与える。

足元をじっと見て。
あなたのじゃなくて。
私の足元を。

鮮やかな緑が一面に敷き詰められている。足元に何か柔らかな、感じることができる。綿を集めたような弾力のある感触。足の裏はそれに触れる喜びを感じている。鮮やかな苔の一帯。スポンジを踏んだようにくすぐったくなる足の裏にはわずかな湿り気を感じ始めている。水分を含んだものを踏んだ時の足を押し返してくるわずかな弾力、きめ細やかなテクスチュアと生暖かさは生きた動物の皮膚を連想させ。確かな生が音量の絞った管弦楽のように感じられる。初夏のように鮮やかな緑はその環境ではわずかに光っているように見えるほど。常緑では無いとても虚ろいやすいその緑の(萌え出したばかりの)、その鮮やかさの中に湿った黒い土の存在を足で感じている。見えなくても。土踏まずには心地よい冷たさを感じているのにどこか温かい、ぬくもりを感じている。生物のぬくもり。苔のむした霧が立ち込めて晴れない山の穏やかな沢にあるような新緑のような鮮やかな緑だけど、同じ言葉を何度も使ってしまうのは、本当に良いものを見ている時だから。 

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