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「ブスになったね」の破壊力。

以下、嫌いにならないで読んで欲しい。
私は恋愛の始まりで苦労をほとんどしたことがない。中学時代からたとえ学校が違っても好きになれば大体落とせる自信があったし、実らなかった片想いも記憶にない。大学時代には暇すぎるあまり悪趣味な恋愛ゲーム(告白させたらゴール)でPDCAを繰り返し、近づきつつものらりくらりかわす処世術を身につけ、社会人になってからは超絶美人な先輩の元で「いい女とは何たるか?」のOJTを受け日々学び続けてきた。口説くことが大好きな業種の大人達を転がして遊びもお酒も覚え、”顔で仕事をする”ではないが、20代の特権だと割り切って容姿で仕事を進めていた部分も正直あったと素直に認める。

「かわいいね」「きれいだね」は、「おはよう」「お疲れさまです」と同義語。言われても別段嬉しいとも何とも思わず、言われること=通常運転だと思っていた。今は書いてるだけで虫唾が走るが…仕方ない。これが過去の私がやってきた事実である。

モテ期の終焉は呆気なく訪れた。

女の賞味期限なんて12時キッカリで切れる。29歳から30歳になった途端、はっきりと自覚できるくらいモテなくなった。笑える。秒針レベルでピッタリ終わったのだ。代わって、私には結婚とパートナーがあった。複数の男性から「かわいいね」とは言われなくなっても、こちらが引くくらい「かわいい」「大好き」を繰り返してくれ、私の自己肯定感をぱんっぱんに満たしてくれる存在。

「ふふふ…この人にとって、私が歴代1位の女だろう」

なんて完全な痛女の勘違いをしてしまうくらい、彼の言葉だけがただの女(モテ期終焉済)の自信を支えてくれていた。

「年齢の割にキレイだからさ…大丈夫だよ」

そんな彼が、最後に私に向けてきた容姿に関する一言がこれだった。元夫は私より5つ年下で、出会った当時は3ヶ月くらい電話もメールも全て無視していたのに諦めることなく押せ押せでアプローチしてきた男の子だ。第一声から「絶対に結婚する!」と息巻き、歯が浮くどころか顎ごと外れそうなくらい甘い言葉を並べていた彼が、最後の最後にこの一言をぶん投げてきた。

衝撃は半端なかった。その瞬間は耐えたが、彼が部屋を出たと同時に殺意が湧いてきたし、全力で「はぁぁぁ〜?」と叫んでいた。

この時の私は、まだ自分の顔を鏡で直視していなかったのだ。

「あなた、ブスになったわね」

自分の顔が変わったことを自覚したのは、彼からの衝撃の一言から4ヶ月後のことだった。当時の勤め先の社長と久しぶりに面談することになり、会議室に入るなりこう言われたのだ。

「あら?あなた、そんな顔だったかしら?」
「ごめんね。ブスになっててびっくりしちゃった」

竹を割ったような性格の社長だが、発言は竹槍ではなく銃弾だった。ショックを通り越して笑うしかない。元々面談の目的は、元夫とのトラブルや息子の病気のために配属や勤務スタイルの変更を相談するつもりだった。鳩が豆鉄砲を喰らったような顔のあと、笑いながら大泣きしてしまった。

「私はいつから自分の顔を見失っていたのだろうか」

泣きすぎて禿げた化粧を直すためにトイレに駆け込んで、そこで自分の顔を見てやっと気づいた。ストレスで激減した体重は頬に表れていた。泣き疲れた跡がはっきりと見て取れる目の下のクマも、伸び切った表情筋も、困ったような下がり眉のデフォルト設定も、私がなりたくないと思っていた”生活に疲れたオバサン”そのものだった。

モテ期だ何だと調子に乗っていたあの頃の面影なんてひとつもない。これが自分だなんて認めるのが悔しくて、絶対に自分の顔を取り戻そうと思った。

お金に関するストレスが、人をもっとも老けさせる。

元夫とのトラブルの最たる原因はお金の問題だった。前回「お金のことで頭を抱える事態になるとは思わなかった」と語ったが、お金がないのはもちろんのことだが、もっとも辛かったのはもうとっくにいい歳を超えているのに親から支援を受けたことだった。

今思えば、母は私の変わり切った顔が悲しかったんだと思う。

離婚が成立するまでの間は本当に苦しかった。ひとり親の手当も当然ない。加えて病気がちな息子で勤めることもままならなかった中での、生活費負担0+夫とのトラブルだ。子どもの前では努めて明るいかーちゃんでいようとしていたが、すればするほど心の穴は虚しく広がるばかりで、私は寝室のことを「泣き部屋」と呼んでいた。

今話題のメンタリストも過去語っていたが、「お金の問題で強いストレスを感じている人は10年が経過する間に、それ以上年を取ったように外見の印象が変化する」という研究結果もある。私はそれを身をもって体感し、証明し、他人様から「ブスだ」というお墨付きまでいただいた。冗談でもなんでもなく、刻まなくても良い皺を刻み、疲労感と不幸のオーラ全開で会議室に現れたあの日の私は亡霊に近かったに違いない。

「広告の仕事からどうして今の仕事に就いたの?」と問われれば、お金について悩んだから強くなりたかったの一択だ。”日中別の仕事をしつつ隙間時間で独学”というやり方は、シングルマザーにとっては非効率というより不可能に近い。意思の弱い私が、そんなやり方では一生かけても未着手になるのが目に見えていた。

学ぶことを仕事にしてしまえばいい。
仕事にして強くなればいい。
強くなって、私は自分の顔を取り戻せばいい。

ねぇ、しぶといでしょう?男が逃げる理由、なんかわかるでしょう?

でも女性にとって「顔が変わる」というのは絶望なのだ。絶望を認めてはこれから先の十数年を生きられない。顔が変わっていく原因を突き止めたのなら、原因を取り除けばいい。ブスの寝台特急に乗ったままなんて勿体なさすぎるではないか。

だから私は「見た目」にこだわる。見た目は一つの物差しで、自分のメンタルコンディションを客観視することができるから。「今日の自分の顔も好きだな」と思える1日を積み重ねて生きていきたい。こんな私の価値観がみんな同じだとは思わないけれど、今の自分のことを好きかどうかを知るヒントにはなるんじゃないかと思って投稿する。鏡は正直だ。

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