平成30年予備試験民事訴訟法の論述例と若干の補足

設問1
1 単純併合(※1)
 Xの Yに対する訴えの訴訟物は、X Y間売買契約に基づく代金支払請求権であり、XのZに対する訴えの訴訟物は、X Z間売買契約に基づく代金支払請求権である。両請求は「同種の訴訟手続による場合」(136条)に当たり、客観的併合要件を満たす。(※2)
 両請求は、XY間の本件絵画売買契約締結事実という「同一の事実上…の原因に基づく」(38条前段)ものであるから、主観的併合要件も満たす。
よって、単純併合の方法を採ることができる。
2 主観的予備的併合
 主観的予備的併合とは、主たる被告に対する訴えが認容されることを解除条件として予備的被告に対する訴えを提起する手段をいう。この手段には明文がないため、この手段が許容されてよいかは解釈問題となる。
 主観的予備的併合は、併合関係が訴訟終了まで維持されるため事実上統一的な判断が保障されるという点で原告に便宜ではあるものの、そのような保障は同時審判申出訴訟(41条)によって図られれば十分である上、主位的請求認容の場合に予備的被告に対する判決がなされず予備的被告の地位が不安定であるし、被告のうち一人が上訴した場合に合一的確定が図られず両負けを防ぎきれない。よって、主観的予備的併合は不適法と解すべきである。
本件について考えてみると、少なくとも両負け防止を防ぎきれないというデメリットは否定できないので、本件においても主観的予備的併合の方法は不適法として許容されない。
3 同時審判申出訴訟(41条)
 XのYに対する請求は、売買契約に基づく代金支払請求であるから、その要件事実はX Y間の甲土地売買契約締結事実である。これに対して、YはZが買主であるとしてこの事実を否認している。他方、Xの Zに対する請求も売買契約に基づく代金支払請求であり、これはX Z間で売買契約が成立していることを前提とする。そのため、両請求はXと売買契約を締結したのはYかZかという事実上両立し得ない関係にあるにすぎず、「法律上併存し得ない関係」にあるとは言えない。よって、本件では同時審判申出訴訟によることはできない。(※3)
設問2
1 ZはYを被告とする訴訟の「当事者」(115条1項1号)ではなく、同条項2号乃至4号の例外に当たらないので、Yを被告とする訴訟の判決の既判力(114条1項)はZに及ばない。そのため、Yを被告とする訴訟の判決の「効力」(46条柱書)を用いることができるか検討する。
2⑴  被告知者が訴訟参加しなかった場合の参加的効力(※4)
 53条4項の文言を素直に読めば、「参加できたときに参加したものとみなされる」以上、訴訟告知を受けた者が訴訟に参加しなかった場合はいつでも告知者が敗訴した場合には「効力」(46条柱書)が生じるように思える。しかし、その「効力」は敗訴責任の分担を根拠とする後訴への拘束力である以上、条文を字義通りに捉えて、訴訟に参加しておらず手続保障に欠ける被告知者に「効力」を及ぼすのは被告知者保護の狭きに失する。反面、被告知者に補助参加の利益(42条)が認められる場合、告知を受けた訴訟に参加して自らの法的利益を守るべきであるのに参加していないことになるため、「効力」を及ぼして敗訴責任を分担させても差し支えない。よって、被告知者が訴訟に参加しなかった場合でも、被告知者に補助参加の利益が認められる場合には、告知の対象となる訴訟の判決の「効力」を及ぼされるものと考える。(※5)
⑵  補助参加の利益
 補助参加は、他人間の訴訟における当事者に協力することにより自己の法的利益を守る機会を与える制度である。他人間の訴訟においての主文中の判断のみならず、それを導く理由中の判断においても第三者の法的利益に影響を来す判断がなされる場合が多い。そのため、「訴訟の結果」には、主文中の判断のみならず、理由中の判断も含むと考えるべきである。
 「利害関係」という要件が要求された趣旨は、無用な補助参加により訴訟が複雑化することを防止する点にあるから(※6)、「利害関係」とは、法的利害関係を指しているものと考えるべきである。そして、第三者が被参加訴訟の判決効の拡張を受けるような場合に限定しては補助参加が許容さえる範囲が狭くなってしまうため、「訴訟の結果」についての判断が参加人の法的利益ないし法的地位に事実上の影響を与えるおそれがあれば法的利害関係があると考えてよい。
 XのYに対する訴えの訴訟物は、X Y間売買契約に基づく代金支払請求権であり、X Y間売買契約締結事実が請求原因となる。しかし、 Yは自己が買主であることを争い、Zが買主であると否認しており、裁判所はこれを容れてXの請求を棄却する判断をしている。かかるZが買主であるとの認定は、Xの Zに対する売買契約に基づく代金支払請求訴訟における理由中の判断で参考にされるおそれがあるから、Zの法的利益ないし法的地位に事実上の影響を与えるおそれがある。よって、Zは「訴訟の結果について利害関係を有する第三者」にあたる。
⑶  Xは敗訴しているため、XのYに対する訴えの判決の「効力」(46条柱書)はZに生じる。
3 参加的効力の客観的範囲
 46条の趣旨は、敗訴責任の分担であり、参加者被参加者が協同すべき関係は主文中の判断のみならず、理由中の判断にも及んでいると言える。もっとも、主文中の判断に直接必要のない傍論についても拘束力を認めると、裁判所の認定によって拘束力の範囲が区々となってしまい不公平である。よって、「効力」は主文中の判断、理由中の判断のうち主要事実にかかる認定及び法律判断生じると考える。(※7)
 XのYに対する売買契約に基づく代金支払請求訴訟において、 Zが買主であることは、X Y間売買契約締結事実が無いことを推認させる意味で間接事実に位置付けられる。よって、Xの Yに対する訴えの判決の「効力」にZが買主であることの認定は含まれないから、Xは当該効力を用いることはできない。
設問3(※8)
1 民訴法152条1項は、「口頭弁論の…分離…を命じ」る「ことができる」という裁判所に弁論分離の判断の余地を与えているような表現を採っている。このような表現が採られているのは、紛争の実効的解決や訴訟経済、効率的な審理運営という訴訟政策的観点から判断されるものであるから、分離するかどうかの判断は当該観点に精通する裁判所こそが適切に行うことができるという考慮に基づく。そのため、弁論の分離をするか否かについては、裁判所の裁量が認められる。よって、その裁量権の範囲を逸脱する場合に初めて弁論分離は違法と評価されると考える。
2 XのYを被告とする訴訟、 Zを被告とする訴訟はいずれもX Y間の売買契約という同一の事実が前提となる請求である以上、訴訟資料は共通しており、これを分離すると同様の審理が重複してしまい訴訟不経済となる。また、Xの両請求は事実上両立し得ない関係にある以上、弁論が分離されてしまえばXが両負けになるおそれが否定できず、紛争の実効的解決に資さない。
 よって、Xの両請求を併合した後に分離することは著しく不合理であり、裁量を逸脱して違法であると言える。

以上

※1
 通常共同訴訟では誤りか、という質問を受けることがたまにありますが、少なくともこの問題に答える場合には単純併合の方が相応しいと思います。設問では、「同一の訴状によってY及び株式会社Zを被告とすることを考えている」とされていますから、両者に対する請求を一つの手続で行いたいという原告のニーズがあるわけです。それに応えられる制度は請求の併合でしょう。通常共同訴訟という捉え方もできますが、この捉え方は審理方法の規律を考えるために、複数当事者に対する各請求の性質や関連性を分析する際に使われるものです。通常共同訴訟と性質決定すれば、共同訴訟人独立の原則(39条)が通用し、必要的共同訴訟(40条)に該当すれば、40条1項以下の規律が妥当するということです。設問に答えることを意識すると共同訴訟における各請求間の関係性を指摘するのではなく、請求を併合できる手段を指摘するのが筋です。

※2
 今回は主観的複数なので客観的併合要件を検討する必要があるのか気になるところですが、被告複数の場合でも各人に対する請求が複数になるわけですから、請求の客観的併合の側面もあるので検討しています。客観的併合でありかつ主観的併合ということですね。民事訴訟法はこのような手続のグルーピングが複数存在し、かつ、これが重なりあったり、複数の概念間に階層構造があったりすることが多々あります。このグルーピングをぶつ切りにおさえるのではなく、ある種の分析のポイント(観点)として捉え、重なり合う場合もあり得るということを頭の片隅に置いておくべきです。

※3
 Yが主張する売買契約成立の否認の理由は純粋に否認と捉えるのが素直ですが、深く考えると抗弁として捉えることも不可能ではありません。抗弁と捉える場合、売買契約の効力が株式会社Zに帰属する旨の指摘になるので、XY間売買契約締結事実という請求原因事実を前提に、当時Zが株式会社、当時Yが株式会社Zの代表取締役、契約締結時Yに代理意思がある、という事実をYが主張することになります。そして、これら事実はXの株式会社Zに対する請求原因事実と同じなので、「法律上併存し得ない関係にある」(41条1項)という評価も可能です。
 Yの主張が否認に過ぎないのか、上記の通り抗弁とみるのかは、どちらかが正しいというものではなく、どちらの捉え方でも合理的な説明になっていればOKだと思います。ただし、否認か抗弁かの認定の違いによって、設問2の説明内容に影響が出るので、論理矛盾には注意したいところです。

※4
 この論点の問題意識は53条4項の文言をどのように読むかであると捉えています。「第46条の規定の適用については、参加することができた時に参加した者とみなす。」という文言は一見して明確に分かる表現とは言い難いですが、被告知者が参加できた時は46条の効力が生じるという意味だと捉えられるため、単に参加しなかった場合は効力が生じる というだけでなく、46条の効力の根拠が敗訴責任の分担であることからすれば補助参加の利益も必要そうであることは予想できるかと思います。その具体的な理由について法科大学院時代の授業で聴いたものとしては、そもそも訴訟に参加しない者に判決の効力を及ぼすのは手続保障に欠けるため難しい、そのため、被告知者に効力が及ぶ場合はなるべく限定するべきであるというものがありました(この限定に加えて参加的効力の客観的範囲を主文中の判断と理由中の判断のうち主要事実にかかる認定と解釈する限定の2つで対処するということらしいです)。
 ただ、限定の契機があるとしてなぜ補助参加の利益が契機たり得るのかの説明もあった方がよいと考え、私自身の理解でそこを補っています。すなわち、補助参加の利益がある者が告知を受けたのであれば参加すべきであったと評価できる(負けたのは参加しなかったせいだと非難できる)ので、拘束力を及ぼされてもやむを得ないと考えることは可能だということです。

※5
 伝統的な通説に従えば、被告知者が訴訟に参加しなかった場合は、被告知者に補助参加の利益がある場合に限って46条の効力が生じると考えることになりますが、有力説はより制限を加えます。すなわち、この考えは被告知者が参加すべきなのにしなかったことを根拠とするから、告知者と被告知者との間に利害対立がある等規範的協同関係がない場合には当該根拠が妥当せず、「効力」は及ばすべきではない、というように告知者被告知者間に協力を正当に期待できる関係がなければ敗訴責任の分担を強いるのは妥当でないと考えます。この考え方に従っても、X Z間に利害対立は存在しないため、46条の効力が生じるという結論に違いはありません。あえてこの考え方を指摘する実益は乏しいでしょう。

※6
 詳述すると、「利害関係」の要件は、補助参加には論理的に制限がない(44条1項参照)ことに鑑み、無意味な補助参加人が参加することによって手続が鈍化することを防ぐために設けられたものであるといえます。そして、法的な利害関係を持っている第三者は有益な資料を持ち合わせている点で有意義であり、訴訟に参加させて自己の法的利益を守る機会を与えるのが補助参加制度趣旨に適うということです。

※7
 設問1の同時審判申出訴訟の許否の説明でYの陳述を抗弁を位置付けた場合、Yの陳述は主要事実にかかるものと扱うことになります。そのため、Zが買主であるという認定を主要事実に係る認定と捉えることとなり、その点についての拘束力を認めるという方向につながりやすいと思います。

※8
 「その主張の根拠となり得る事情としては,どのようなものが考えられるでしょうか。」という問いに対する解答としてはやや趣旨のズレたものになっている感があります。
 正直、根拠となる事情とそれが根拠となることを示すというイレギュラーな説明方法を採るより、「その弁論の分離は,裁判所の裁量の範囲を逸脱した違法である」という弁護士L1の主張に根拠があることを説明することを通して解答した方がいつも通りの検討で余計なことを考えずに済むと思ったので、このような説明方法を採りました(配点割合も5分の1ですからね。設問1と2を頑張るべきしょう)。このような解答でも充分な評価は得られると思いますが、余裕があれば問いに対して完全に応える解答をするべきことは当然です。

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