平成26年予備試験民事訴訟法の論述例と若干の補足


論述例

設問1
1 別訴提起の上弁論併合を申し出る方法
 本件訴訟とは別に、XがWに対し、甲土地の所有権に基づき、乙建物を退去して甲土地を明け渡すことを求める訴えを提起し、これと本件訴訟の弁論を併合(152条)するよう裁判所に申し出て、裁判所がこれを受けて両事件の弁論を併合すれば、Wに対する訴えについても本件訴訟の手続で併せて審理されることとなる。

 もっとも、弁論の併合は当事者に申立権が認められておらず、裁判所が職権で判断するべき事項であってその裁量判断に服するものであるから、Xが申し出ても必ず弁論が併合されるわけではない。また、別訴提起をすることによって印紙代も嵩むこととなりXにとって不経済である。

2 明文なき主観的追加的併合による方法
 主観的追加的併合とは、訴え提起後に当事者が複数となる訴訟形態を指す。この方法が許容されれば、Xが本件訴訟にWを新被告として引き入れることができることになるが、本問では独立当事者参加(47条)や訴訟承継(49条以下)、共同訴訟参加(52条)等の明文ある制度を用いることができない。本件では明文がない場合にも主観的追加的併合を許容することができるかが問題となる。

 判例は、新訴につき旧訴訟の訴訟状態を当然に利用することができるかどうかについては問題があり、必ずしも訴訟経済に適うものでもなく、かえって訴訟を複雑化させるという弊害も予想され、また、軽率な提訴ないし濫訴が増えるおそれもあり、新訴の提起の時期いかんによっては訴訟の遅延を招きやすいとして、明文なき主観的追加的併合を一般的に禁止している。

(ここから結論を示すまでは判例の理由付けが本問に妥当するか否かの説明が続きます。予備試験合格レベルでは、判例の理由付けを説明できれば充分です。以下の説明は私見であり、予備試験合格レベルに達する上で必須ではないものであることを念頭に置いた上でご覧ください。) 

 もっとも、いかなる場合にも上記理由が妥当すると考えることは硬直的に過ぎるから、個別具体的な事案に応じて柔軟にその許容性を考えるべきである。
 たしかに、本件訴訟とXのWに対する訴えは別手続であるため、本件訴訟の訴訟状態をXのWに対する訴えに当然に利用することができるわけではない。
 しかし、WはYから乙建物を賃借しており、WがXに対し甲土地の明渡義務を負うか否かについてはYがXに甲土地の明渡義務を負うかが密接にかかわることになる以上、WはYによる訴訟追行を介して手続保障を与えられていると評価できる。そのため、Wとの関係でも本件訴訟の訴訟状態を及ぼしても手続保障に欠けることはない。
 また、本件訴訟と新訴とはいずれも同一不動産の明渡義務の有無についての紛争であり、同一の手続で審理するのが紛争の実効的解決に資する上、訴訟資料のほぼ共通する以上訴訟経済に適わないということはない。
 加えて、同一不動産についての明渡義務に関する紛争である以上、その争点も共通すると考えられるから訴訟を複雑化させるということもないし、甲土地上の乙建物に建物賃借人がいるということは容易に発見できるものではなく、原告Xに調査義務の懈怠等の事情もないから、軽率な提訴ないし濫訴との評価は当たらない。
 Xが乙建物をXが占有していることに気づいたのは、本件訴訟を提起した後であり、本件訴訟の審理が相当進捗した後というわけではなく、新たな期日を指定しWに防御の機会を与えるとしても本件訴訟の審理を著しく遅延させるものとは思われない。

 したがって、XはWに対する建物退去土地明渡請求を本件訴訟に追加的に併合するという方法を採ることができる。

設問2
1 ①について
⑴ Wの参加態様
 YがWに乙建物を賃貸したのは平成26年5月10日であり、本件訴訟の訴訟係属後である。Wは、Yが負い得る乙建物収去甲土地明渡請求義務に包含される乙建物退去甲土地明渡請求義務を負い得る上、本件訴訟とWに対する請求とでは同じ甲土地及び乙建物という不動産が争いの主眼となるから訴訟資料もほぼ共通すると考えられる。よって、Wは本件訴訟に当事者として参加しているから、「訴訟の係属中その訴訟の目的である義務の……一部を承継したことを主張する第三者」(51条)に該当する。したがって、Wの参加は義務承継人の参加承継にあたる。

⑵ Yの陳述の意義及びWとの関係での評価
 ア 自白とは、口頭弁論期日又は弁論準備期日における相手方の主張と一致する自己に不利益な事実を認める旨の陳述をいう。
 本件訴訟の訴訟物は所有権に基づく返還請求権としての建物収去土地明渡請求であるから、所有権取得原因事実は請求原因を構成する。AX間で本件売買契約が締結されたことは本件訴訟の請求原因事実であるから主要事実であり、かつ、原告Xが立証責任を負う。

 Yは本件訴訟の口頭弁論期日において、相手方Xが立証責任を負うAX間売買契約締結事実を認める旨の陳述をしているから、Yの陳述は自白に当たる。

イ 訴訟承継が生じた場合に承継人との関係で従前の訴訟の審理状況を全く利用できないとすると承継人を相手方として改めて訴訟を追行することを余儀なくさせることとなり、不公平である。また、承継原因が生じるまでは被承継人が訴訟に最も利害関係を有しており、承継人はその利害関係の基礎となる権利義務を承継している以上、被承継人に対する手続保障によって承継人に対する手続保障は代替されているといってよく、承継人が従前の訴訟状態に拘束されてもやむを得ないといえる。したがって、訴訟承継が生じた場合、承継人は承継原因が生じた時点での訴訟状態に拘束され、これを承認しなければならないものと考える(訴訟状態帰属効)。

 本件では、Yが自白をした後にWによる義務承継人としての参加承継がしょうじているから、WはYが自白をした状態をそのまま引き継ぐこととなる。

ウ 裁判上の自白は証明不要効(179条)及び裁判所拘束力(弁論主義第二テーゼ)を生じることから、自白の相手方は証拠の厳重な管理から解放されることとなるところ、自白の撤回を許せばそのような利益を一方的にはく奪することになるため、自白を撤回することは禁反言に抵触し許されない。WはAX間売買契約締結事実はないものとして争いたいと考えているが、これはYのした自白と矛盾するものであり、その陳述をすることは許されない。

2 ②について
 Wの参加態様は①の場合と同様である。
 義務承継人の参加承継が生じた場合、51条によって47条が準用されるから、47条4項の準用する40条1項によって規律される。裁判上の自白は「全員の利益」(40条1項)につながる行為ではないから、その効力を生じない。そのため、WはAX間売買契約締結事実を争うことは妨げられない。
 なお、本問の場合はWが参加した後にYが自白しているので、訴訟状態帰属効によってWの陳述が妨げられることもない。

3 ③について
⑴ Wの参加態様
 1⑴で述べたところによれば、Wは「訴訟の目的である義務の……一部を承継した」(50条1項)といえる。そのため、本件訴訟の当事者であるXの申立てにより裁判所がWに訴訟を引き受けさせる旨の決定により、Wは義務承継人として訴訟引受をしたものと評価できる。

⑵ Yの陳述の意義及びWとの関係での評価
 引受承継が生じた場合、50条3項により41条1項が準用されるから、同時審判申出訴訟の規律が妥当し、同時審判申出訴訟は通常共同訴訟(38条)であるから、共同訴訟人独立の原則(39条)が妥当する。よって、Yの自白は共同訴訟人であるWに影響を及ぼさず、WはAX間売買契約締結事実を争うことは許される。

以上

明文なき主観的追加的併合の論じ方

明文なき主観的追加的併合を論じるのはなぜか

 設問1では明文なき主観的追加的併合の許否が問われています。この論点を論じるべき場合として、まず本問では訴訟承継制度を用いることができないことを確認しておくべきです。Wが乙建物を賃借したのが平成26年2月10日であり、同年4月21日の訴訟継続前である以上、訴訟継続中に訴訟の目的に承継原因が生じた場合に用いる訴訟承継は使えません。
 また、主観的追加的併合と呼ばれる訴訟形態の中には、訴訟承継のほか、独立当事者参加(47条)や共同訴訟参加(52条)も含まれますが、Xの主導権でWを引き入れる手段としては不適切なのでこれらを選択するのは難しいでしょう。そのため、本問では明文がない場合でも主観的追加的併合を許すことができるかを検討することになります。論点を学習する際は、問題意識をしっかり把握しましょう。

 指導をしていると、「主観的追加的併合は適法か」という問題提起をする答案を目にしますが、主観的追加的併合一般を検討するのではなく、明文がない場合でも主観的追加的併合が許されるかを検討する問題なので、不適切です。また、「明文なき主観的予備的併合が許されるか」とする答案もありますが、予備的併合と追加的併合を混同するものとして厳しい評価が下ると思われます。そもそも主観的予備的併合は明文がないので、明文があることを前提とする「明文なき〇〇は……」という表現は採れないでしょう。

明文なき主観的追加的併合は判例の理由付けを理解せよ

 この論点が出題されるのは、予備試験では平成26年試験が初めてですが、司法試験では、なんと4度も出題されています。そのほとんどは明文なき主観的追加的併合に関する最判昭和62条7月17日の立場を理解していることを前提に、昭和62年判決が示している理由付けに関する理解を問うもので、「本件では明文なき主観的追加的併合も許される」という方向性の立論を求めるものでした。そのため、司法試験受験生であれば本問に対する解答は比較的容易(のはず)であると思います。

 本問では、民事訴訟法上どのような方法を採り得るかという問いですし、予備試験合格レベルに達する上では、昭和62年判決が示している理由付けを示して違法と論じることで終わってしまっても差し支えないと思います。私が書いた論述例では、昭和62年判決の理由付けを前提に、それが本問に妥当するかを具体的に検討していますが、ここまでの説明をしなければ落ちるというものではないので安心してください。ただ、一度出題されているので、将来昭和62年判決が示した理由付けの理解を問う問題が出てもおかしくないと思いますので、これを機に昭和62年判決が示した理由付けについて押さえておきましょう。

 最近の司法試験でいうと令和4年の民事訴訟法で出題されています。令和4年の問題はアガルートの司法試験過去問解析講座で私が解説講義を担当していますので、詳しい内容が気になる方は講座のご購入も検討してみていただきたいです(唐突な宣伝)。興味がある方は以下のリンクからどうぞ。

なぜ理由付けが問われるのか

 ところで、なぜ昭和62年判決の理解が複数回出題されているのかについて考えてみたのですが、おそらく民事訴訟手続一般の流れを把握しているか、イメージが湧いているかを試したいのではないかと予想しています。

 昭和62年判決で示されている理由付けは、主観的追加的併合が生じた際の審理内容やそれが生じることによって発生し得る弊害を具体的にイメージできていなければ説明できません。

 「新訴につき旧訴訟の訴訟状態を当然に利用することができるかどうかについては問題があり、必ずしも訴訟経済に適うものでもな」いという理由は、主観的追加的併合が生じた場合は共同訴訟となること、元の訴訟の審理と新訴の審理は一応別手続であった(ので従前の手続に新当事者が当然拘束されるかは一考を要する)こと、「かえって訴訟を複雑化させるという弊害も予想され」るという理由は、別手続である以上争点が異なることもあり得、同一手続で審理する旨味がどこまであるのか検討の余地があること、「軽率な提訴ないし濫訴が増えるおそれもあ」るという理由は、具体的な事実から新訴を併合せざるを得なくなった事情が本問で認められるか、「新訴の提起の時期いかんによっては訴訟の遅延を招きやすい」という理由では、元の訴訟の審理状況を分析して、新訴提起及びそれに伴って新当事者の攻撃防御のために期日を開くことが審理の著しい遅延となるのか検討する必要があります。
 上記の理由付けが具体的事案に妥当するかを判断するには、民事訴訟手続が一般的にどのように行われているのか、審理の経過やその内容について知っている必要があるのです。司法試験(特に最近)では、判例や論点の理解を真正面から問うとうよりも、判例の理解は当然にあるとした上で、別の事案にその判断を及ぼすことができるのかの分析を通して民事訴訟手続一般の理解を試そうとしているように感じます。

 審理がどのように経過するのか、手続はどのような内容なのかについての理解を深めることはもちろん、判例を勉強する際にも当該事案類型についてどのような判断を示したかに加えて、そのように判断した論拠を確実に押さえるようにしてください。その理由が言えるだけでは押さえた内に入りません。その理由がどのような事態を想定しているのか、どのような要請なのかを説明できなければ意味がありません。

 なお、昭和62年判決は、民事訴訟法の専門家らからの痛烈な批判にさらされている、非常に異論の多い判例です。特に理由付けが一般論に終始している部分は批判が集中しています。昭和62年判決の理解が頻出であるということは、判例が専門家らからどのような評価を受けているかを意識して判例学習をしてほしいというメッセージだと思います。

訴訟承継というややこしい制度

類型の整理

 訴訟承継には、参加承継と引受承継という態様があり、それぞれ権利承継人の訴訟参加(49条)、義務承継人の訴訟引受申立て(50条)が明文で規定されており、それぞれを入れ替えたもの(義務承継人の訴訟参加及び権利承継人の訴訟引受申立て)が51条で規律されています。まずは、以上の4つの類型の棲み分けを把握し、具体的事案に落とし込めるようにしておくべきです。事案の中で起こっている事態を把握できなければ裁判所が行うべき判断として適切なものを説明できません。

 ①②はWが訴訟参加してきているので義務承継人の訴訟参加、③はXがWを引き入れるように裁判所に申し立てているので義務承継人の引受承継申立てに当たることは明らかでしょう。類型の選択で手間取るようだと合格レベルとは言い難いでしょう。

 ①②では「Wが当事者として参加した」と指摘されているので独立当事者参加を検討してしまったという方も中にはいらっしゃるのではないかと予想しますが、半分正解半分不正解です。
 というのは、権利承継人の訴訟参加について規定する49条1項を読むとわかることなのですが、同条項は「訴訟の係属中その訴訟の目的である権利の全部又は一部を譲り受けたことを主張する者」が「第四十七条第一項の規定による訴訟参加したとき」に適用されます。ということは、「権利承継人の訴訟参加⊂独立当事者参加」という関係にあるということです。権利承継人の訴訟参加は独立当事者参加の一部なんですね。それは47条が適用されるのは当然ですし、義務承継人の訴訟参加の場合も47条が準用されるのは納得です。
 本問で①②を独立当事者参加で検討したとしても誤りではないのでしょうが、問に答えるには事案の分析が甘いということになるでしょう。訴訟承継を論ずべき典型例を押さえておきましょう。

訴訟状態帰属効への言及にについて

 ①②の問い方を見るに、訴訟状態帰属効(訴訟状態承認義務とも称されます)の説明は求められていると思われるので、適切な説明ができなければ苦しい戦いを強いられることになるでしょう。①②を読み比べて「何が違うのか」と思ってしまった方は訴訟状態帰属効について復習しておきましょう。

 Yの陳述が自白であることはある程度勉強していれば当然に分かることですし、自白の撤回が基本的には許されていないことも当然把握しているでしょうから、Wが参加する前にYがAX間売買契約締結事実について自白していることがWに何らかの影響を与えるのではないか、という問題意識を持ってほしいことは①②の言及のされ方からうかがえます。

設問2で求められる言及のレベル

 前提としてWが義務を「承継」(50条1項、51条)したといえるかも関わってきますが、YWに対する請求はいずれも所有権に基づく返還請求ですし、同一の不動産に関係するものですから、「承継」に当たることは明らかだといえます。そのため、判断枠組みを示してしっかり当てはめる、ということまでは必要ないと思います。論述例でも簡単な説明で済ませています。全く言及しなくても致命傷ではないと思いますが、説明は簡単にしておくのが無難だと思います。

 訴訟状態帰属効についての説明を根拠から丁寧に行い、①の場合はYの自白に拘束され、②の場合は47条4項が準用する40条1項で無効になるという処理を説明できれば、求められている解答になるでしょう。

 自白の意義や自白の不可撤回効はメインの論点ではないので、比較的あっさりと説明しています。不可撤回効の例外は典型的な論点ではありますが、本問の処理という観点からは言及は必須とはいえないでしょう。

 ③については、訴訟引受と性質決定した上で、同時審判申出訴訟の規律が及ぶこと、通常共同訴訟であることに言及し、共同訴訟人独立の原則(39条)が妥当することを明示して、Yの自白がWの方の手続に影響しないことを説明できれば十分でしょう。
 主張共通や証拠共通を論じる必要はないでしょう。言及するとすれば主張共通の原則ですが、コスパを考えばあえて説明するまでもないと思います。

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