令和元年予備試験商法の論述例と若干の補足


論述例

設問1
1 Dの立場において考えられる主張
①決議事項として予定されていなかった自身を取締役から解任することを目的とする臨時株主総会の開催が提案された点及び②自身を特別の理解関係を有するという理由で議決に参加させなかった点は取締役会決議の瑕疵に当たり、本件取締役会決議は無効である。

2 上記主張の当否
⑴ ①について
 取締役会については、株主総会決議における招集通知に決議事項を記載することを求める規定(299条4項、298条1項2号)、招集通知に記載された決議事項以外の事項を決議してはならないという規定(309条5項)がない。これら規定の趣旨は、一般に企業経営について専門知識を有していない株主については招集通知に記載された決議事項以外の事項に対して即座に適切な判断を要求することは困難であることに対し、取締役会の構成員である取締役は経営の専門家であるため情報収集等の準備の機会を確保する必要性に乏しく、機動的な業務執行の決定を優先させるべき点にある。そうだとすれば、取締役会の招集通知に議題を載せていたとしても、通知に記載のない事項を審議決議すること自体は会社法上許容されるものと考えるべきである。
 よって、Dを取締役から解任することを目的とする臨時株主総会の開催の提案が取締役会の決議事項として予定されていなかったとしても取締役会手続に法令違反はない。したがって、①についての主張は失当である。

⑵ ②について
 369条2項の趣旨は、取締役会決議事項について自己個人の利益を図り、忠実義務(355条)に従った議決権行使が期待できない場合に予め当該取締役の議決権行使を禁止し、決議の構成を図る点にある。よって、「特別な利害関係」とは、特定の取締役が会社に対する忠実義務を誠実に履行することを定型的に困難にすると認められる個人的利害関係ないし会社外の利害関係指すものと考える。
 本問は、代表取締役からの解職決議とは異なり、Dを取締役から解任することを目的とする臨時株主総会の開催を決議する場合であり、その決議は当該取締役の法的地位に直接の影響をもたらすものではなく、株主総会決議の決議事項となる可能性があるに過ぎない。しかし、最終的な意思決定は株主によるものとはいえ自己が取締役から解任される可能性がある状況自体、取締役の報酬や社会的評価を失う危険があると評価することができる。そうだとすれば、そのような状況を避けるために会社の利益を無視して自己の利益を優先する可能性が有るといえるから、忠実義務を誠実に履行することを定型的に困難とさせる個人的利害関係があるといえる。よって、Dを取締役から解任することを目的とする臨時株主総会の開催を決議するについては、Dは「特別な利害関係を有する取締役」に当たる。
 したがって、②についての主張も失当である。

設問2
1 Dの立場において考えられる主張
株主総会決議取消しの訴え(831条1項)を提起した上、①Aが有していた甲社株式100株を定足数に算入していない点、及び②Dが丙社を代表して同社が保有する甲社株式40株についての議決権行使を認めなかった点が「決議の方法が法令…に違反」(同条項1号)するとの主張をすると考えられる。

2 ①について
⑴ 本件株主総会はDを取締役から解任(339条1項)することを議案とするから、定足数は「議決権を行使することができる株主の過半数」(309条1項)である。
 甲社株100株を保有していたAは平成28年12月1日に急死したため、Aの相続が開始し(882条)、その「権利」(896条本文)に含まれる甲社株100株を妻B、長男C、長女D及び二女Eが共同相続する(887条1項、890条、896条本文、898条、899条、900条1号、同条4号)。そのため、上記甲社株100株は「株式が二以上の者の共有に属するとき」(106条)に当たる。Aの遺産に関する遺産分割協議は調わず、当該株式については権利行使すべき者の指定がされないままであるから、「当該株式についての権利」に当たる議決権を「行使することができない」(106条本文)。そうだとすれば、Aが保有していた甲社株式100株式については「議決権を行使することができる」ものから除外されるとして定足数に参入しないという見解もあり得る。

⑵ しかし、その見解に従うと準共有株式数が発行済み株式総数の大部分を占める際に少数株主の議決権行使で決議が成立することとなり妥当でない。そもそも、106条本文は会社の事務処理上の便宜のため、権利行使者通知があるまで株主権行使を暫定的に停止する趣旨であると考えるべきである。したがって、同条本文の権利行使者通知を欠く場合であっても、当該準共有株式の株主は「議決権を行使することができる株主」に含まれると考える。
 甲社には定足数につき別段の定め(341条)はないから、定足数は101株となるところ60株を定足数要件の分母としてなされた本件株主総会決議には「決議の方法が法令…に違反」する場合に当たる。100株は甲社発行済み株式総数の半分を構成するから「その違反する事実が重大でな」いとはいえないので、裁量棄却(831条2項)は成立しない。
 以上より、①の主張は正当である。

3 ②について
⑴ Dが代表する丙社は本件会社分割により乙社が有する甲社株式40株を承継している。甲社の株主名簿には丙社は記載されておらず原則として株主たる地位を甲社に対抗できない(130条1項)。しかし、甲社は丙社による名簿書換請求を拒絶しており、これが不当拒絶に当たり、丙社は信義則上株主たる地位を甲社に対抗できると考える余地がある。

⑵ 確かに、丙社は「株式を当該株式を発行した株式会社以外の者から取得した者」(133条1項)に当たる。しかし、甲社の定款には譲渡による甲社株式の取得について甲社の取締役会の承認を要する旨の定めがあるため、甲社株式は「譲渡制限株式」(2条17号、134条柱書)に当たり、「次の各号のいずれかに該当する場合」(134条ただし書)に当たらない限り133条は適用されない。
 吸収分割が「一般承継」(同条ただし書)に該当するという見解もあり得るが、相続や吸収合併と異なり、吸収分割は分割財産を当事者間で自由に決めることができるため、実質的には株式の譲渡と変わりはない。よって、吸収分割は「一般承継」に該当しない。
 したがって、甲社の名簿書換拒絶は不当ではなく、丙社は株主たる地位を甲社に対抗できないから、丙社による議決権行使を認めなかったことは決議方法の法令違反に当たらない。
 以上より、②の主張は失当である。

以上

設問1で要求される説明のレベル

予定外の決議をする点と特別利害関係取締役に気付く

 本問では、決議事項として予定されていなかったDを取締役から解任することを目的とする臨時株主総会の開催が提案された点及び②Dを特別の理解関係を有するという理由で議決に参加させなかった点の2つについて手続的瑕疵と評価できるか、できると考える場合は取締役会の決議の効力はどうなるのか、が問われています。
 これら点の検討を求めていることは事実7の段落ををよく分析すれば自ずと気付けます。
 特別利害関係取締役を論じる点は問題文で明確に記載されていることから気づけますし、予定外の事項を決議した点は、「定例の報告が終わった後、Cは、決議事項として予定されていなかったDの取締役からの解任を目的とする臨時株主総会の開催を提案した。驚いたDは激しく抵抗した…」という事実関係から、「予定外の事項を決議するのはおかしいだろ!」というDの主張を汲むことができそうです。
 前者に言及しないのは論外ですが、後者の主張は気付けない方が結構います。ただ、後者の論点も一般的な基本書やテキストには基本的に言及されている論点なので言及できないと結構痛いと思います。

予定外の事項を決議することが手続的瑕疵にならない

 様々な立場があるとは思いますが、この点を手続的瑕疵と捉えることは少なくとも一般的な見解とはいえないと思います。論述例でも言及していますが、株主と取締役の能力の差や株主総会の招集手続の厳格に規律されている等の本質論に鑑みれば、取締役会の招集通知に議題を載せていたとしても、通知に記載のない事項を審議決議すること自体は会社法上許容されると考えるがえるのが素直です。論述する際も帰結だけを示すのではなく、本質論に言及した上で説明できるかがより上に行けるかどうかの分水嶺になると思います。

特別利害関係取締役の意義を説明し、事案に即して当てはめる

 特別利害関係取締役は司法試験でも予備試験でも頻出ですし、超基本事項なので、369条2項の趣旨をしっかり説明して、「特別な利害関係を有する取締役」の意義を指摘することは必須です。趣旨への言及は必須ではないという意見もあるかもしれませんが、この文言の意義は受験生のほとんどが書けると言っても過言ではないので、差をつけるとすれば趣旨等の本質論の説明でしょう。
 加えて、差をつけるために意識するべきは事案に即して説明することだと思います。本問の事案は東京地決平成29.9.26を基にしたものなので、この事案を知っていれば楽に説明できたと思います。しかし、この裁判例を知っていた方は多いとはいえなかったでしょうし、出題者としてもこの裁判例を知っていることを求めているのではなく、これを知らなくとも代表取締役の解職決議についての判例(最判昭和44.3.28(百選63))を知っていれば、この事案も説明できるでしょと期待しているのだろうと思います。
 上記平成29年決定は地裁の判断に過ぎませんから、これに従う必要はありません。判例の判断枠組みを意識して、事案に素直に向き合って説明すればどちらの結論でも評価されると思います。

設問2で要求される説明のレベル

定足数要件と議決権行使に問題があることに気付くこと

 設問1と比べると、設問2は超基本とは言い難い、やや難易度の高い問題なので、充分に検討できない方も多かったのではないかと予想します。
 ただ、事案に対して基本知識を基にして向き合って、必要に応じて論点主義的な発想を加味すれば、題意に沿う解答とはいえずとも、問題意識には気付いている解答にはできそうに思います。

 設問2は株主総会決議の効力を否定するための主張を検討する問題ですから、基本的には株主総会決議取消しの訴えの本案勝訴要件が問われていると考えるのが素直です。出訴期間を徒過した事情はありませんし、取締役の解任が議題となっているので、不存在や無効の確認の余地はありません。
 株主総会決議取消しの訴えに関する問題は、831条1項1号が頻出なので本問もそうではないか、特に招集手続又は決議方法の法令違反があるのではないかと考えるのが、過去の傾向からの自然な発想です(もちろん決めつけてはいけません。あくまで可能性の話です)。

 本件株主総会の招集手続に目をやると、招集通知は乙社、C、D及びEに対して発されているため、適法であることは明らかです。乙社が保有する株式は丙社に承継されていますが、甲社取締役会の承認もなければ名簿書換も済んでいませんから、いずれにせよ甲社は丙社を株主として扱う必要はなく、丙社に招集通知を発する必要はありません(譲渡制限株式の承認なき譲渡は会社との間では無効。そもそも、名簿書換がなければ株主たる地位を会社に対抗できない(130条1項)。株主に対する通知は株主名簿に記載されている株主にすれば足りる(126条1項))。
 そうすると、決議方法の法令違反が怪しくなります。現に事実8では決議方法でCD間にバトルが生じています。検討のメインは決議方法の法令違反だと気付けるはずです。

 決議方法でまず問題になりそうなのは、Dが丙社が取得した甲社株式40株の議決権行使をしようとしたところ議長のCがこれを認めなかった点であることは事実8を読めば何となく把握できるはずです。この問題意識に気付ければ評価されると思われます。

 次に、事実4でAが死亡したことによりその保有していた甲社株式100株の遺産分割は不調となり、権利行使者通知がなされていないことが分かります。この事実は設問1で用いるわけでもないので、設問2で用いると考えるのが自然です。106条本文の瑕疵がある場合の典型例と言えば議決権行使ですから、本問も議決権行使に問題がありそうと考えることもできます。しかし、Aの甲社株式を準共有する相続人の一人が議決権を行使したとか、会社が同意(106条ただし書)したとかの事情はないので議決権行使が問題ではないことは明らかです。

 では、どこに問題があるのかと、問題文をヒントに考えてみましょう。事実8であえて「行使された議決権60個のうち40個の賛成があったとして」と定足数に言及しているのは気になります。過去問ではあまり見たことのない言及です。何か気付いてほしいというメッセージと受け取るべきでしょう。甲社発行済み株式総数は200株ですから、何かおかしいと気付けるはずです。

 そして、株主総会決議普通決議の定足数が「議決権を行使することができる株主の過半数」(309条1項)であること、106条本文は権利行使者通知がなければ「当該株式についての権利を行使することができない」という効果であることを併せ考えれば、権利行使者通知が未了の100株については定足数に含まれないものと扱うという甲社側のスタンスに行きつきます。この取り扱いが本当に妥当なのかという問題意識に行き着ければ間違いなく高評価になると思います。

丙社による議決権行使と認めないことの争い方、論じ方

 この点については、丙社が乙社との間の吸収分割による甲社株式40株の承継あったことを甲社に主張できるかがキーになります。

 事実6で丙社が甲社に対して名簿書換請求をしているところ、Cは甲社を代表して当該株式取得は甲社取締役会の承認を得ていないことを理由に拒絶しています。名簿書換の拒絶としては、不当拒絶の場合は信義則上実体的株主を株主として扱う義務が会社に生じるという判例(最判昭和42.9.28(百選33))が有名ですから、これを起点にして甲社は丙社を株主として扱うべきという立論がまず思いつきます。

 しかし、甲社の株式は譲渡制限株式なので、株式譲渡の対抗要件である名簿書換以前に承認機関の承認がなければ会社との間で有効にならない(最判昭和48.6.15(百選16))ことが分かります。この発想に至れば丙社による名簿書換請求はそもそも出来るのか?と疑問を持てるはずです。この点については134条という条文があるので、それを知っている人は上記のような判例を起点とする発想はしないかもしれませんが、実質的な理屈を押さえておくのも肝要です。

 さて、上記のように考えると、そもそも丙社が甲社に対して名簿書換請求をしていること自体がおかしいという考えに至ります。「いや、譲渡制限なんで、できないっすよ。」で済めばよいのですが、そんな簡単な問題出すでしょうか。という疑いの目を向けると、おそらく丙社は名簿書換請求を適法にすることができる前提で行っているので、何か名簿書換請求を適法と考える余地があるはずと考えることになります。そもそも共同申請(133条2項)であるはずなのに、丙社だけで名簿書換請求をしている点も違和感があります。「丙社は、単独で名簿書換請求をすることができると考えているのか?」、このような感覚に至れれば上出来です。

 名簿書換請求は原則共同申請ですが、「利害関係人の利益を害するおそれがないものとして法務省令で定める場合」には例外的に単独で可能です。会社法施行規則22条を参照することになります。「株券発行会社」(117条7項)の事案で説明することが多い条文ですね。甲社は株券発行会社ではありませんから、規則22条1項各号を概観していくと、もっとも可能性が有るのは「一般承継」(同条項4号)と分かります。丙社はこの条文に従って単独で名簿書換請求をしているのでしょう。そして、単独で行えるという規律がある以上法律レベルでも名簿書換請求を認める規律があるはずです。134条ただし書4号です。上記のような回りくどい思考をせずとも、原則134条本文/例外134条ただし書各号、という発想から4号の「一般承継」に気付けはします。条文をしっかり確認することが習慣付いている方は簡単に思いつくかもしれません。

 あとは、Dの主張の根拠が、吸収分割が「一般承継」(134条ただし書4号)に当たることを前提に、甲社による名簿書換請求の拒絶は不当であるというものであることを明示し、吸収分割が「一般承継」に当たると言ってよいのかを論じるだけです。この点については、当たる/当たらない両論あるようなので、結論はどちらでもよいと思います。
 答案では、吸収分割が「一般承継」に当たらない立場から、吸収分割が相続や吸収合併と同視できないという形式論で説明を終えています。本番でこの言及ができれば充分だと思います。

 ただ、形式論だけでなく、実質論まで遡って理解しておくと再現性が高い状態でインプットできます。134条ただし書4号が譲渡制限株式においても名簿書換請求を認めることにする趣旨から考えるわけですが、ここで意識することも相続と吸収合併との対比です。相続と吸収合併は株式の承継が起こることに加え、従来の株主が存在しなくなるという共通点があります。従来の株主が存在しなくなっているのに、譲渡承認していないから承継は無効だとしてしまうと、承継の対象となった株式が宙に浮いてしまいます。134条ただし書4号はこの状態を回避するためであると考えると、「一般承継」は従来の株主が存在しなくなることによる承継を指すものと考えることになります。吸収分割は吸収分割承継会社が消えるわけではありませんから、「一般承継」に当たらないと考えることになります。

Aが保有していた100株を定足数の分母に含めなかった点の論じ方

 この点の問題意識は、前述した通り106条本文の効果である「当該株式についての権利を行使できない」を字義通りに捉えて、「議決権を行使することができる株主」から除外するという説明が成り立つかです。
 この点も両論あり得るので、結論はどちらでもよいと思います。問題意識に辿り着いただけで評価されます。
 ただ、論述例で言及したように、除外する立場を採用してしまうと少数株主で決議されるという不自然な帰結につながってしまいますので、私見としては除外しない説明をしています。
 両論あり得る場合の自説の決め方として、「ある見解を採用することによってどのような事態に至ってしまうのか」を思案するというのは一つの手段になり得ると思います。


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