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子どもの看病をしてた私は、心の中で刑事さんとプリンを食べる。

「そろそろ治ってよ…」
一番辛いのは子どものはずだけど、そう思わずにはいられなかった。

去年の秋、久しぶりに子どもの看病で1週間ほど仕事を休んだ。
胃腸炎だった。

夜中何度も起きてお手洗いに行き、
時にはシャワーで体を洗ったりするのを、4日間やった。
なかなかしんどかった。
本人も辛くて、笑ったかと思えばすぐ機嫌が悪くなったり、
痛いと言ってよく泣いたりした。
ご飯もあまり食べれない。水分もあまり喉を通らない。
罹った本人はもちろん、看病してる私にとっても胃腸炎は大変だった。

そして、そのしんどさが積もって、
つい「泣かなくていいんだってば!」と言ったり
1日に何回も「ママー!」と呼ばれ、
「今汚れた服を洗ってるんだから待ってて!」と少し強めに言ってしまった。

服が汚れるのは、娘のせいではない。
「このイライラは子どもに向けてもしょうがないやつ」ってわかってる。
罪悪感が胸に湧いてきた。

一番辛いのは娘なのに。
優しく看病したいのに。
イライラしてしまう自分が嫌だった。

そんな時、心の中に彼が現れた。
黒スーツを着た、癖のある話し方をする刑事さんが。

「うーん、つまりあなたは疲れてるのではないですか?」
急に現れて、古畑任三郎っぽい刑事さんはそんなことを言って来た。

まあたしかに私は夜中何度も起きてるから眠いし、
1日看病した疲れが取れない。
それに、子どもが泣きながら起きるから目覚めも悪く、結構ストレス。
さらに仕事を休んでいるという焦りもある。

「あなたは疲れが溜まっているし、余裕もない状態ですねぇ。」
刑事さんはニヤリとして言った。

たしかに、余裕がない。だって看病でいっぱいいっぱいなんだもん。
辛いのは子どもの方って思ってたけど、
もしかすると、私も相当しんどい状況なのかも...?

イライラしちゃう自分が嫌で、罪悪感もあるけど、
しんどい状況だったら、そりゃ優しいばっかじゃいられないよな。

推理によるとこのイライラは、”そういう状況だから”、みたいだ。

そっか…。この刑事さん、なかなか頼れるかもしれない。

振り返ればこの”そういう状況だから”というのは、育児では何度もある。

例えば朝の支度のときも、そう。

服を着替えた娘に、
「じゃあ靴下を履いておいてね、お母さんは髪の毛を結ぶゴムを持ってくるから」
と言ってブラシとゴムを持ってくると、まあ大体、靴下は履いてない。
なんかその辺にあったぬいぐるみとおしゃべりしてる。

こういうとき、つい「もう靴下を履いて!」と怒ってしまう。

あーあ、今日も怒っちゃったな。
朝起きてがんばってるのは、私だけじゃなく娘もなのに。
そんなふうに申し訳なく思いながら、通勤電車に乗ることもある。

育児は思い通りにならないと言うけれど。
そんなことはもう身に染みてわかってる。
でも、時間通りに家を出る必要もある。

「お母さんとして自分と子どもの朝の支度もして、
会社員として働いてる責任もこなしてるんですね」

そうなの。
両方を平日毎日こなすのは結構大変で、つい怒っちゃう。

「それだけ必死で頑張ってるんですね」
刑事さんはそうも言ってくれた。

私も頑張ってて、いっぱいいっぱいになってるんだ。

“そういう状況“は私をいっぱいいっぱいにして、イライラさせてる。
それでなんとかしたくて、怒ってしまう。

そうか。よかった。
何だか少し、楽になった。

私がお母さんを上手にやれてないわけでも、
私がうまく子どもに声かけできないせいでも、なかったんだ。
もう頑張ってるんだ。

でも、怒ったりすれば子どもの体調が治るわけじゃないし、
朝できれば二人とも笑顔で家を出たい。

イライラしてしまうのは、そうなる状況があるからなのはわかった。
それなら、もう少し工夫できないだろうか。

看病では、夜中のお手洗い問題には、オムツを買うことにした。
「え、本当に買っちゃう?」ってドラッグストアのレジでドキドキしたけど、思い切って買ってみたら
看病が少し楽になって、子どもと笑えるようになった。

朝の支度では、靴下含めた着替え1セットを前日の夜に用意しておくことにした。
着替えの進みが遅い時もあるけど、
「まだ履いてない!靴下をこれから選んで、履いて...あと何分かかるんだ!」
という焦りやモヤモヤが少し減った。

私が疲れたり余裕をなくしてることを、少しずつなくしてみた。
思い通りにいかないことの連続である育児が楽になるヒントは、
案外まだあちこちにあった。

でもそのヒントは、余裕をなくしてる時こそ全然見つからない。
だから、私は心の中に黒スーツの刑事さんにきてもらって一緒に見つけていこう。

子どもが寝たりちょっと落ち着いた隙に、買っておいたプリンでも食べながら、
ねえ刑事さん、またイライラしちゃった。どうしたらいい?
そう聞くと、自転車に乗って来てくれる。

「あらーこれは困りましたねえ。もしや最近、忙しすぎてません?」と、
一緒に推理してくれて、“そうなる状況“を解決するヒントが見つかるかもしれない。

その推理は、
お母さんである私も疲れることもあるし、疲れてたらニコニコばっかじゃいられない、今私も頑張ってるんだ!と気づかせてくれる。
私が「お母さんをできてないわけじゃない」とも。

今週も仕事が忙しそうだ。
明日スーパーに行ってプリンを買って、冷蔵庫に奥にこっそりしまっておこうかな。
刑事さんと食べるんだから、プリンと紅茶的なものも買っちゃってもいいかもしれない。

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