まばたきしないお前とは四谷でさよならまた会う日まで

電車。それは単なる人間観察の場。人間に対して無関心だった俺が人間を好きになる公共の更生施設。

電車だ。

本を読むのに飽き、あたりを露骨に見回すと斜め前にまばたきすることを忘れている男が座っていた。

しかし、妙に様子がおかしい。こいつ、まさか。

そう、俺と同じく乗客を観察対象と見なしている人間だった。お前もここで、更生しようとしているのか?人間を好きになろうとしているのか?

ただ、こいつは危険だ。まばたきをしない。まぶたガン開きだ。俺にはなぜかマスクの下の顔が透けて見えた。こいつ、この状況で笑ってやがる。俺のとなりに座ってる女性を見てニヤニヤしている。クスリをやってるやつの目なんだよなあ。目がクリクリしていて余計に怖い。俺はそいつと目を合わすことができなかった。見つめられたりしたら吸いこまれる引力があった。

は虫類の目だ。は虫類の目なのにとても大きいというある種の矛盾を抱えた目だった。は虫類の目は鋭いはずなのに。

こいつマスク外したら舌出してるだろってくらい挑発的な顔をしていた。いつ中指を立ててきてもおかしくない目付き。中指立て系男子、中指を立てるやつの顔面だった。

四谷で降りる。お前とはさよならだ。また会う日まで。次会う時は1回でいいから俺にまばたきを見せてくれよ。お前がまばたき1つするだけで俺の人生が変わるかもしれない。お前のまばたきは、俺のとってのバタフライエフェクトだ。




小さい頃からお金をもらうことが好きでした