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神様のおつかいをした日

このお話はずっとずっと前にコンビニでバイトしてたときのできごとを

ずっとずっと前に書き留めたもの。

だから、時代とか地域性に少しズレがあるお話かもしれませんが。



普段、何気なくしていることかもしれないけど、 他の人から見ればとてもすごいことって感じることがある。

例えば、キャベツのせん切り。

目の前で シャッ、シャッ、シャッって もののみごとにキャベツをせん切りにしている姿にどこか惹かれるものがある。

その人にとってはどってことないことだと思ってるかもしれないけど…。

例えば、車の運転。

縦列駐車を一発で決めちゃうときなんが 見てて思わず拍手しちゃうときがある。

その人にしてみれば、「たかが縦列駐車なんかで拍手されるなんて恥ずかしい」って思ってるかもしれないけど…。

そんな毎日の生活の慣れっていうのはその人が気付いていなくても

とてもすばらしいことがあります。

そう。自分ができないことをすんなりとできてしまう人を見た時は神様やマジシャンが登場してしまうことがあるのです。


さて、9:00Amになり、今日の(コンビニの)バイトも終わりっ!!

さあ、着替えて帰ろっと。あっ、そうだコピーしていかなくちゃ。

かばんの中には今日コピーしようと思って入れておいた本が入っている。

「急ぎ」ってわけじゃないけど、今 時間あるし、思いついた時にやっておかないと ずっとできないしなぁ なんて思いながら、着替えを済まして コピー機の前に立つ。

お店のコピー機は窓のきわにあって、外の様子もよくうかがえる。

なんだた曇ってきちゃったよぉ。雨降るかなぁ。でも今日、天気予報は晴れって言ってたし…。買い物に行きたいけど、明日のほうがいいかなぁ。

そう思って、外を見ていたら、向こうから、おばあちゃんが微笑みながら歩いてくる。

あっ、目が合っちゃった!!

とりあえず、軽く会釈をして微笑み返す。

よく来るお客さんだったっけ? あんまり記憶にないなぁ。それに私、もう私服だし、近所の人だったっけ?

そんなことを考えていたら、いつの間にか そのおばあちゃん、私のとなりにいるじゃありませんか⁈ びっくり!!

「あのぅ、すみませんけど コピー…」とおばあちゃん。

なんだ、コピーしたかったのかぁ。

「あっ、はい、私すぐに終わりますから…」とちょっと慌てる私。

「えっとですねぇ、これコピーしたいんですけどねぇ、私コピーの仕方わからんのですわ。あとでいいからやっていただけます?」とおばあちゃん。

なんだ。コピーの仕方わからなかったんだ。だから、店の外から目で合図してたのね。よかった、知り合いなのに忘れてたってわけじゃなかったのね。

そう思いつつ「あっ、はい。いいですよ。」って返事をする。

コピーできない人は意外と多い。

初めから覚えようとしないのか、それとも教えてもらってもすぐに忘れちゃうのか、わかんないけど とにかく多い。

学生とか、あと、仕事でいつもしている人は手慣れたもんで紙詰まりとか多少のトラブルがあっても 勝手に自分で直してる。

けど、おじいちゃん、おばあちゃん、主婦の人とか子どもとか 普段あんまり必要なさそうな人は けっこう できない人が多くて バイト中に「すみみませーん。やっていただけます?」と言われることはしょっちゅうである。

コピーはセルフサービスなので、「やり方を教える」が基本なんだけと、特に高齢の方は「自分にはできない難しそうなこと」と捉えて、どうしてもとお願いされることが多い。

今はバイトも終わって私服なわけだし、困っている人を助けると思ってそのお願いを引き受けた。

さぁ、自分の分が終わって、次はおばあちゃんの分だ。

「これねぇ、2枚コピーしてほしいんだわ」

見れば、何かの料理のレシピ。新聞の切り抜きである。

「2枚ね。ちょっと待っててね。」

おばあちゃんにお金をもらい、コピーする。

紙をえらんで、ボタンを1コ押すだけだから、全然大したことじゃない。

「はい、どうぞ。これでいいですか?」とおばあちゃんに手渡す。

「えぇ、えぇ、ありがとうございます!!」

それから、おばあちゃんは続けて

「わたしねぇ、コピーの仕方、わからんのですわ。だからねぇ、家を出る時からずっと、神様にお祈りしとったんですわ。神様って本当におるんですねぇ。店の外から見ると(コピー機の前に)あんたが立っとるでしょ。ホント助かったわ。ありがとねぇ。」と言って帰っていった。

「?」

私は一瞬、言葉をなくした。

そんな、コピーの1枚や2枚でおおげさな。

でも、そのおばあちゃんにしてみれば、神様が出てくるくらいの一大事(いちだいじ)!!

と すると 私はこのおばあちゃんにとっての神様のおつかいをしたってことになるのかな。

うーん、神様…⁈

普段の生活の中で、神様や仏様が出てくることのない私だけど、なんだかあったかくなる何かを感じた。

店の制服を着ていたら、そうじゃなかったと思う。それは「仕事」ですませてしまう部分があったと思うから。

バイトが終わって私服でした このことは親切。

何気ない親切でこんなに喜んでもらえた私はなんだかいい気分。

「神様ねぇ。」

そうつぶやきながらお店を出ると、雲と雲の間から、おてんとうさまが顔をのぞかせている。

「やっぱり今日は晴れね。さぁ買い物行こ!!」

自転車をこいで、店をあとにした。

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