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軽口を叩けなくなった

なにかこう、不完全燃焼感が強く残る日々が続いている。
しばらくはコロナのせいだろうと思っていた。実際コロナのせいで私が企画していたイベントはいくつか中止になり、イベントを通じて発生させる予定だった人と人との出会いも叶わず、そんな中で、なにか新しくい創造的なことでも始めようという気持ちにはとてもならず、燃やしたいのに燃やせないものが家と体の中に鬱積されていく感じ。ところが7日ほど前、コロナによるこの状況が長期化する見通しであることが発表された。そうすると私も、また私が身を置く世の中も、そこから急に気持ちを切り替えた感覚があった。長期化するんかい。それじゃあずっと休憩ってわけにもいかんな、と私が思った瞬間に世の中も同じことを思った相通じる感があり、新しい仕事の依頼が立て続けに舞い込んだ。これでようやく不完全燃焼期間にはピリオド、とは言えない、もう少し暫定的な区切り、カンマが打たれるはずであった。

 ところが、やっぱりなにか一向に不調なのである。昨夜はあまりにも悶々としていたので、DHCが出している「リラックスの素」というあまりにも適当な名前をつけられ可哀想なサプリを飲んだら久々に夜一度も起きずに眠れた。そう、このところ、夜寝てても数時間おきに起きちゃう。鮮明な夢もよく見る。鮮明が故に起きるとどっと疲れてる。運動不足が良くないのかもと思い、昨日は家族と犬と、いつもより長めの散歩をした。つまりよく眠れたのはサプリよりもこの散歩せいかもしれない。とはいえ、一体このもやもやは何なんだろう、と考えて、ふとスマホのせいかもしれないと思い至った。スマホが壊れて早2週間。スクリーンの向かって右端が、縦のラインでまるっとタッチできない、所謂、本当の意味でのアンタッチャブルなのである。untouchable cell phone なんである。やばい利権が絡んだスマホのように聞こえるが実際にはなんの変哲もないスマホ、昔息子が使っていたもののお下がりである。息子からのお下がり、なんていうと私の手は寒い中の水仕事であかぎれだらけ服はツギハギだらけ靴からは親指が出てる、貧しい中の「母さんはいいからお前がお食べ」「母さんはいいからお前がこの最新のスマホをお持ち」が想起されるのだろうが実際は少し違って、私の先々代のスマホが壊れ、別れた夫の家に余っていたというスマホ(iPhoneXS MAX ※但し背面のワイヤレス充電からしか充電ができない)を譲り受け使っていたところ、あまりにも大きなスマホなので私の腱鞘炎が悪化し息子のスマホ(iPhone7)と交換。しかし程なくして息子のスマホ(iPhoneXS MAX ※但し背面のワイヤレス充電からしか充電ができない)は次第に背面からの充電もできなくなりやむを得ず新品に機種変、私の手元には息子のお古が残った、という次第なのである。
そんなことはどうでもよくて、スマホの右端がアンタッチャブルになった話である。右端がアンタッチャブルになると、右側に配置されたボタンが一切押せない、ということになる。ユーザーにとっての使いやすさを考え抜いてデザインされたあらゆるアプリの最も肝心なボタンというのは往々にして右手親指の届く場所、つまり右端のアンタッチャブルゾーンにあるため、最も肝心なボタンが押せない。Twitterも、Instagramも、Slackも、送信ボタンが押せない。キーボードの数字の0やクリアボタンも押せない。改行ボタンは10回くらい頑張って押せばたまに押せる。このようなスマホを手にした人間に何が起きるかというと、インターネットで軽口が叩けなくなるのである。私は考える力を持っているのでただアンタッチャブルな状況に指を加えて見ているだけではなかった。三本指タップで画面をズームし、送信ボタンを画面中央に持ってきて送信、とする技を身に着けた。これでツイートができる。誤字の許されない(クリアが押せないため)慎重さでテキストを打ち、しかしやはり誤変換してしまい三本指タップでズームしてクリアボタンで一文字削除、再び正しい文字を入力し直し三本指タップでズームして送信……しようと思ったら誤って動画広告型ツイートをタップして表示してしまう過ち、右端の✗ボタンで閉じよう、と思うも右端はアンタッチャブルなのでやっぱり三本指タップでズームして閉じよう、と思ったらやっぱり三本指で誤ってタップしてしまい広告先に飛んで戻れなくなってうわああああああああああっっっっっっとなってはたと気づく。こんな苦労を重ねて私は一体どんな価値あるツイートをしようとしてるんだよと。そしてそれがこれだったりするのである。

これぞまさに中止だ中止である。これほどの時間と手間を重ねてでも投稿するべきツイートなどない。……と、これまで栓の開いた蛇口のように吐き出し続けていた軽口の大部分を飲み込むようになったことが、目下私の健康を著しく害している。そうに違いない。


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