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新紙幣とタンス預金

この7月、新紙幣が発行された。新紙幣は、千円札、五千円札、一万円札の全てが刷新され、デザインとセキュリティ機能が一新された。

新紙幣が発行されても、これまでの旧紙幣が直ちに無効になるわけではない。引き続き使用することができる。日本銀行では、明治18年から現在までに56種類の銀行券を発行してきた。これらのうち現在発行している種類の他、既に発行されなくなった種類を含めて現在25種類の銀行券が有効である。昔あった100円札や1円札も有効だ。

もちろん、旧紙幣の流通は徐々に減少していき、いずれ使用されなくなる。2,000円札がわかりやすいが、法的に有効でも使用されなれば流通しなくなる。使用されなくなるのは、過去の例から考えると10年程度のようだ。
使用されなくなった旧紙幣は日本銀行の本支店で交換できる。手数料はかからないが、日本銀行の窓口は少なく、窓口がない都道府県もある。

新紙幣の発行では「タンス預金」にも注目が集まる。日本のタンス預金の総額は数十兆円に上ると言われている。
タンス預金は特に高齢者の間でその傾向が顕著である。要因は様々あろうが、日本の成長期と共に所得を得てきたこと、バブルを経験して投資にリスクを感じていること、今の預金利息が低いこと、デジタル化に追いついていないことなどがタンス預金を支持する一因となっている。

新紙幣の発行には、タンス預金をあぶり出す効果も期待されている。旧紙幣はいずれ使えなくなるので、多くの人々が銀行に旧紙幣を持ち込んで交換を行うことになる。これにより、これまで隠されていた大量の現金が表に出てくる可能性が高まる。

相続税対策でタンス預金をしている人もいる。具体的には、現金を自宅に保管しておいて、相続財産として申告しない、もしくは少額に見せかけるという手法である。もちろんこれは脱税になるので、税務署に見つかれば厳しい罰則が科される。

税務署には預金口座の調査権限があり、相続税の調査の際には被相続人やその家族の預金口座の動きを過去に遡ってチェックする(過去10年程度)。銀行は税務署から預金口座の問合せがあれば他の業務を差し置いて回答するそうだ。なので、タンス預金として現金を引き出していた場合でも、その引き出しの記録から隠し財産が発覚する可能性はある。

良からぬことを考える依頼者がいると、困るのは税理士や我々司法書士だ。いずれも銀行の調査権限もないし、依頼者の家のタンスを調べる訳にもいかない。正直、嘘をつき通してくれればいいが、中途半端に打ち明けられるとしばらく悩むことになる。

この新紙幣の発行を契機に、現金の管理や相続について見直す機会となればいい。また、新紙幣への切り替えを通じて、透明性の高い金融環境が実現することを期待している。

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