ゲンロンβ41

小松理虔 【新連載】当事者から共事者へ   第1回 障害と共事
東浩紀 観光客の哲学の余白に・番外編    ドストエスフキーとシミュラークル(1)
星野博美 世界は五反田から始まった     第9回 乳母日傘
速水健朗 【特別再録】よい子のためのツーリズム 第1回 ビーチとマスツーリズムの終わり
伊勢康平 哲学と世界を変えるには――石田英敬 × ユク・ホイ × 東浩紀イベントレポート
藤城嘘 五反田アトリエからのお知らせ

ゲンロンβ41 アンケート回答メモ
小松理虔 【新連載】当事者から共事者へ   第1回 障害と共事
小松さんの新連載がいよいよ今号からスタートする。浜通り通信に引き続き、非常に楽しみだ。折に触れ、小松さんの活動はウォッチしていたが、やはりゲンロンのメルマガで読むのがいちばんしっくりくる。タイトルもクリティカルだ。当事者になった人たちとそれ以外の分断はますます深刻になっているように見える。ゆるく連帯することを名指すことは喫緊の課題であると思う。
小松さんの活動を追いながら、フッと疑問に思うことがある。ゲンロンの活動によって、私は何度か福島を訪れた。この機会がなかったら、一生訪れていなかったと思う。逆に、福島の人たちが外部として訪れる場所はどこなのだろう?もちろん場所といっても具体的なものではなく、抽象的な方向性のようなものだ。その体現者のひとりとして小松さんがいると思って注目している。
今回のレッツのエピソードもその断片だろう。この話を非常に興味深い組織論として読んだ。人々が協働で何かをなすとき、核にあるのは何か?ここではオガちゃんの「やりたいようにやる」がそれに相当すると思う。オガちゃんに付き合おうとするゆるい付き合いに生まれる余白に自分なりの考えや役割がある。当事者という言葉は、非常に抑圧的に響く気がしている。当事者と見なされた者を内外からそこに押し込める。これは一般的な職業でも当てはまると思う。特定の職業がもつイメージ、役職が人をそこに押し込める。いつのまにか衝動はなくなり、型にはまってしまう。その衝動を尊重することの大切さ。観光も行きたいと思う一歩が大切なように、組織もやりたいと思う核となる衝動が大切だ。

東浩紀 観光客の哲学の余白に・番外編    ドストエスフキーとシミュラークル(1)
ゲンロン10も刊行され、ゲンロンカフェでトークもあり、さらにゲンロンβで東さんの文章を読めるのはお得。東さん自身も言及していたが、最近のゲンロンβは東さんのまとまった論考が読めるので、ゲンロン・ゲンロンカフェ・ゲンロンβの3つのメディアが補完し合って良いバランスになっている。今後の論考も期待大だ。
今回のドフトエフスキーの聖地巡礼の話で最も興味を持ったのは、ボートとライドの乗客の振る舞いが似ているという箇所だ。観光客は通り過ぎる。視線は向けるし、写真も撮るが、そこに留まることはないーライドでは物理的に留まることができないのだがーそれが観光客の距離感ではないか。通り過ぎるだけだから、表層的なものしか見ない。しかし、出会いに導かれ、立ち止まって深く潜ろうとする。その偶然性を大切にする。そう感じるエピソードであった。

星野博美 世界は五反田から始まった     第9回 乳母日傘
“奇妙な言い方だが、うちが軍需産業の末端に関わっていたことで立ち位置が定まったような、安堵に似たものすら感じるのである” この一文が衝撃的だった。と述べてみたが、正直、この感覚は自分にはまだ分からない。しかし、東さんの悪の愚かさの議論に通じる何かであると思う。また、星野さんの祖父が書いた文章を星野自身さんが読み返した後でたどり着いた感覚であることも面白い。最初に読んだときは、まさに観光客気分であっただろう。それが次に読むときは、より切実さをもってその文章に向き合うことになる。そして、星野さんの文章に私がゲンロンβで出会い、可能性が生まれる。そんなことが続けばいいなと思ったりしている。

速水健朗 【特別再録】よい子のためのツーリズム 
第1回 ビーチとマスツーリズムの終わり
ゲンロンエトセトラは未読なので、今回の速水さんのエッセイは初めて読む。東さんのゲンロン0では、概念としての観光客が提示されているが、実際の観光についてのエッセイは、それを補完する意味で大切である。ゲンロン叢書の刊行も楽しみにしている。
ビーチ史は色々な論点を含んでいて非常に面白い。結局、観光は産業であり、資本主義とは無関係でありえない。ビーチという場所を媒介にして、生産者と消費者がつながる。また、西洋と日本のビーチに対するイメージの差も気になる。日本の場合、まさに海水浴という言葉がピッタリである。ウェルベックの『プラットフォーム』の抜粋にもハッとする。ビーチに行くことそのものに観光における重要な意味が含まれているように思える。マンガのビーチ回における息抜きとハプニング。日常からの脱出と偶然。管理されたテーマパークでは得難い欲望を満たしてくれる場所。ビーチから多くのことを読み解けそうだ。

伊勢康平 哲学と世界を変えるには――石田英敬 × ユク・ホイ × 東浩紀イベントレポート
全編英語のトークイベントのレポートである。海外出張でで、中央アジア、東南アジアによく行くので、ブロークンな英語には親しみがある。逆に聴きやすいぐらいなのだけれど、人文学が門外漢な自分にとっては、議論の前提に対して浅薄な理解しかない。なので、背景や用語を解説し、議論を掘り下げてもらうのは非常にありがたい。
東洋思想については、中島さんの『道徳を基礎づける』の回や、三宅さん・ドミニクさんの人工知能の回でも取り上げられていたので、定期的に続けて欲しいテーマだ。
石田さんの亀のイラストに東さんが“Funny”と言っていたことが挿絵を見て思い出される。

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