小説『叙述トリック短編集/似鳥鶏』※ネタバレなし
私はいわゆるどんでん返し系の作品が好きなわけなんですが、どんでん返し系の作品って、どんでん返し系であること自体がネタバレになってしまうので、「この作品、どんでん返し系だからオススメだよ!」とか「どんでん返し系の作品でオススメない?」なんて話はできないのがもどかしいなと常々、悩んでおりました。
そんな話をしている時に友人にオススメされた小説がコチラ。
『叙述トリック短編集/似鳥鶏』
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叙述トリックって言うてしもうてるやん!というツッコミの入るタイトルですが、その名の通り、「叙述トリックしますよ」と明言している本です。
叙述トリックもどんでん返し系の一つに含まれるのですがまずはこれの説明を。読者の先入観や思い込みを利用して騙す‥と言うと聞こえが悪いか。一度違う道筋にミスリードしておいて、最後にネタバラシをして驚かせるという技法ですね。
なんだろ、例えば女子校が舞台の物語で薫という名前の人物が出てきて女子高生だと思ってたら実は男性教師でした!みたいな?薫って男性にもいるよね、みたいな。(ドラマ『相棒』、面白いよね)
とまあそんな叙述トリックをしますと宣言しているかなり挑戦的なこの短編集。
これはね、ぜひ読んでほしいのでネタバレ無しで書いてみようかな。
まず、叙述トリックがあるってことを忘れるくらい、それぞれの短編集がそもそも面白いです。これ、本当に罠ですよね。
2つ目の物語が特にお気に入りでした。いわゆる喋ったことないけど両片思いの2人の視点が交互に語られるのですが、これがもう、普通にキュンキュンしました。キュンキュンしてる間にころっと騙されました。
とは言えですね、読みながら違和感とか叙述トリックっぽいところを探そうとするんですが、なかなか全貌まで推理することは難しい。ちょくちょく違和感とかは拾えるんですが、気になるなー関係あるんかなーって思ってる間に読み終わっちゃいます。いったん閉じて推理するとか、登場人物の相関図とか情報をまとめるとか、すれば良いんでしょうけどね。
でも騙される快感ってあるじゃないですか?え?ないですか?
例えば脱出ゲームで脱出失敗した後の解説で「あーっ!そういうことかーーーっ!」ってなるやつとかもその一つだと思うんですよね。
もちろん自力で推理して当てたり、脱出ゲームも成功する楽しさはあるんですが、気持ちよくしてやられる、って一つの快感だと思うんですよね。アハ体験的な脳の刺激なのかもしれない。
ただこれはすごく難しくて‥何が難しいって、「理不尽すぎてはいけない絶妙なバランス」の上に成り立つものだからだと思うんです。
どの程度のトリックなら読者が納得して気持ちよく騙されるのかは本当に難しい。「そんなんわかるわけないやん!」っていう気持ちが勝ってしまっては、その快感は得られないわけで。また人によってその感覚も知識や経験も異なるわけで、いやはや本当に難しい。
そんな話に通ずる‥かな?「ノックスの十戒」ってご存知ですか?以下、Wikipediaより引用しておきます。自分で物語を書く時も、一部参考にしてます。
まあこれも諸説あるんです一概には言えないですし、あえて破ってる作品もあったりする(叙述トリック作品だとなおさら)ので、話半分、鵜呑みにはせずに気になる方は読んでみてください。Wikipediaのリンクに飛べば少し詳しく書いてる部分もあります。
あとは短編集ということもあって1話あたり20分くらいで読めるので、長編とかと違って一気に駆け抜けられるから、登場人物誰だっけ?とかこれなんだっけ?みたいな忘れる心配もなく読めるのは、ありがたい。電車移動の時間とかを有意義に使えました。
そんな感じで読み終えた今の感想としては、本当に、気持ちよく騙されました。叙述トリックってわかってる分、多少の注意は払って読んでいるはずなのに、それでも騙されるのは、気持ちがいい。
逆に違和感とか、これがトリックに関係してるんやろな〜って読みながら気付いた部分は、それはそれで気持ちがいい。
どちらに転んでも気持ちがいい。そんな素敵な作品でした。
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