人間性に目覚めて封建的な家庭に反逆する女性…ノラ。作中の彼女は現代社会にも問題提起しているようだ。
「そういう事じゃないのよ…」「そんな問題じゃないのよ…」「ああ、すべてがむなしい…」なんだか女性たちの深いため息が聞こえてくる。女性たちの呟きが聴こえてくるようだ。
人形の家がある。美しいノラは前途ある弁護士を夫に持つ幸せな妻だった。ノラは以前、病気の夫の為に療養費を内緒で高利貸から借りていた。そして返済の不手際から脅迫を受けていた。
苦しむノラは夫の愛を信じていたが、それを知った夫はノラを激しく責めた。ノラは結局、自分は夫にとって人形に過ぎなかったと悟る。
ノラは夫と子供たちを捨てて家を出た。敢然と胸を張って広い社会へ出て行った。そこでノラは様々な経験を重ねる。そしてある時、夫の前でこう言った。
「私はまず、何よりもあなたと同じ人間です。いいえ、人間になろうとしていると言ったほうがいいですね。世間はきっと、あなたのほうが正しいと言うでしょう。ジャーナリストもそんなことを言うでしょう。でも、世間の声や本の文言など構いません。私は一人で考えて独りで行動します」
これは将に美しい妻、ノラの人間宣言なのだ。今、この社会のあちこちで、女性たちの人間宣言が聴こえる。格差の是正だとか女性の活躍社会だとか、政治家たちが国会で居眠りしながらこれ見よがしに言っても、多くの女性たちは信じていないだろう。
人間を軽視し続ける社会と政治…その当事者たちは読むがいい。ヘンリー・イプセンの「人形の家」をね。百数十年程前のノルウェーを舞台にした小説「人形の家」はそのまま現代社会に問題提起しているのだ。
詰まり…人間の考えなんて、まるで進歩がないと云うことだ。