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キャンピングカーで次男と二人旅(仕事付き)

2015年夏。父親が小倉に行きたいと言い出しました。癌との闘病も4年目に入ろうというところ。抗癌剤の効果よりも副作用の方が大きくなり、余命宣告をされる直前のことでした。

父は北九州市小倉の生まれで、父方の祖母が住んでいた小倉は私にとってもなじみのある土地でした。小倉から大分県方面に南下したあたりに先祖代々の墓もあります。父の最後の遠距離旅行になるかもしれない、なんとか連れて行ってやりたい。そう思い、私はまず理由づくりから始めました。「福岡に取材があるので乗っていかないか」と、そう誘ったのです。福岡に行ったらあそこに行きたい、あれを食べたいと色々な予定を楽しそうに語っていました。父は、おそらく私がわざわざ仕事を作ったことをわかっていたと思います。それでもよかったのです。

しかし福岡へ旅立つ予定の数日前に、父は救急車で運ばれ緊急入院しました。「次に入院したら、もう退院できないと覚悟してください」と主治医から言われていた、そういうタイミングでの入院でした。

せっかく楽しみにしていた、九州への旅。なんとか父を楽しませることはできないか。そう考えて思いついたのは、旅に次男を伴うことでした。孫の成長を見せることで、私の親としての成長を、そしてそれらを支えた父自身の人生の価値の大きさを実感してもらいたかったのです。

次男の成長を見せるために、いくつかのミッションを用意しました。父が行きたかった場所へ行き、父がやりたかったことを代わりに遂行してくること。それに加え、新しい場所への挑戦も。

課せられたミッション:
・太宰府へ行き梅ヶ枝餅を食べる
・小倉でうなぎを食べる
・福岡の墓へ参る
・関門トンネルをひとりで渡って九州へ行く
・秋芳洞を探検する

初日(2015年9月13日)

これらのミッションを胸に、私と次男は西に向けて旅立ちました。2015年9月13日のことです。夕方に出発して伊勢湾岸自動車道の刈谷パーキングエリアまで行き、そこで車中泊としました。

2日目(2015年9月14日)

翌朝、出発しようと準備をしているところでヒッチハイカーを見かけました。一人旅のときよりも余裕をのあるスケジュールを組んでいたので、これも何かの縁と思い拾うことに。知らない人とも臆さずしゃべる性格の次男も出会いを楽しんだようです。

この日はひたすら移動。一気に山口県まで進みました。私はただただ運転。次男はリアのベッドスペースでアニメを観たりゲームをしたり。山口自動車道の王司パーキングエリアで夕食、車中泊。

3日目(2015年9月15日)

この日は次男の最初のミッションが待っていました。関門海峡をひとりで渡り、九州を目指すのです。

関門海峡を渡るには、一般有料道である関門トンネル、高速道路である関門橋、そして徒歩・自転車・原付用の人道トンネルがあります。人道トンネルの入り口で次男を放り出し、出口で合流することにしました。


小学生がiPhoneで撮った動画なのでブレブレです。酔わないようにご注意ください(笑) それにしても、すれ違う人に律儀に挨拶してますね。

本州から九州へ徒歩で渡れることを知らない人も、関東には多くいます。それを知識として知るだけではなく、実際に歩くことで距離感を体感してもらえたのではないかと思います。

午前のうちに九州自動車道吉志パーキングエリアまで進み、ランチとシャワー。ここでは次男はコインシャワーも初体験します。午後にはスマートデザインアソシエーションの須賀さんへのインタビューがありましたので、しばし車内で留守番。ここでも次男に九州体験を。

九州育ちにはおなじみ、竹下のブラックモンブランです。関東では売っていないんですよね。

翌朝に太宰府に参りたかったので、夜のうちに太宰府まで移動し、次男の希望で夕食は焼き肉屋に行きました。

4日目(2015年9月16日)

こんな寝起きの顔からスタートして、太宰府天満宮にお参りしました。ここでのミッションは、梅ヶ枝餅を食べること。父も母も妹たちも、梅ヶ枝餅大好きな一家なんです。でも、次男はあんこが苦手……。

ミッションをこなすためにがんばって食べました(笑) 好きな人にはたまらないものですが、好みの問題ですからね。こんな顔になってしまうのもしかたがありません。実家にも梅ヶ枝餅を送る手配をして、福岡市街へ。今度はオルターブースの藤崎さんにインタビューの時間をもらっていましたので、またしても次男は駐車場で留守番。

朝からあんこにやられた次男ですが、本日はミッションてんこ盛り。藤崎さんのインタビューが終わったら大急ぎで小倉へ。旦過市場でぬかみそ炊きと鯨の尾の身を買わなければなりません。小倉の祖母の家に遊びに行くと、よく連れて行かれたのが井筒屋と旦過市場でした。見覚えのあるお店はほとんどありませんが、懐かしい景色。もちろん次男は初めて来ますから、「くじら、ぬかみそだき」とつぶやきながら、お店を探して探検気分。

ぬかみそ炊きのお店では、おじさんが気前よく味見をさせてくれました。梅ヶ枝餅が口に合わなかった次男ですが、こちらは気に入った様子。子どもがおいしそうに食べるので、お店の方もついついたくさん味見させてくださったようです。こちらも予想外の次男の反応の良さに、元から買おうと思っていた量よりもたくさん買ってしまいました。もちろん鯨専門店も探して、父が食べたがっていた尾の身を100グラム購入。クーラーボックスがあるので、冷蔵輸送は問題ありません。

そしてこの日の最後のミッション。次男がこの旅で一番楽しみにしていた、うなぎです。九州ではうなぎは、生から焼くのでカリっとしていて香ばしいんです。一方関東では一度蒸してから焼くので、食感はふんわりしています。父は生から焼いた香ばしいうなぎを食べたがっていました。父に食べさせてやりたかったのですがかなわなくなってしまったので、代わりに次男が食べて感想を伝えることにしたのです。

こちらはもう、言うことなし。私も蒸していない九州のうなぎは大好物。ミッションだからしかたないね、と言いながら、ふたりで高級な夕食を楽しみました。

5日目(2015年9月17日)

この日は道の駅 豊前おこしかけで目覚めました。本日はお寺に挨拶してから、お墓参り。そこから一気に山口県まで走りました。目的地は、秋芳洞!

私は小学3年生から5年生まで山口県に住んでいたので、秋吉台や秋芳洞は懐かしい場所のひとつ。学校の遠足や、週末の家族ドライブなどで何度も訪れました。その中でも日本最大規模の鍾乳洞である秋芳洞は、機会があれば子どもに見せたいと思っていました。

この世界も、やっぱり自分の脚で歩んで見て回らなければ実感できないものです。写真は高さ15メートルの巨大な柱、黄金柱と次男。これ以外にも、大地にしみこんだ雨と石灰岩が長い歳月をかけて作り上げた神秘的な世界が、広大な地下空間に広がっています。自然の織りなす美しい世界を、次男はどう受け止めたのでしょうか。

6日目(2015年9月18日)

この日はただひたすら移動して、帰宅。

翌日、ちょうど良いタイミングで奇跡的に父が退院を許され、自宅に戻りました。頼まれたおみやげの数々は、どれも一口食べるのが精一杯でしたが、食べながら次男の土産話に笑顔をうかべていました。次男には毎日、日記をつけさせており、写真を見せながらそれを読んで聞かせました。

それから10日後、父はまた救急車で病室へ。自分の脚ではもう戻ってきませんでした。この旅に次男を伴うことで最後に親孝行ができたかなと、今では思っています。

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