立憲政党は何を約束するべきか

■新自由主義を克服し、社会保障と公助の国へ

まず、最近の環境の変化を頭に入れておく必要があります。自民党政権は安倍さんから菅さんに首相が代わったところ、菅さんと結び付いている竹中平蔵さんや維新系の人たちの影響力がますます強くなり、例えば要介護5の認定を受けている人まで保険給付から外そうとするほど正気を失っています。

しんぶん赤旗『要介護5まで保険給付外し』2020年9月20日
https://www.jcp.or.jp/akahata/aik20/2020-09-20/2020092001_02_1.html

竹中平蔵さんなどはさらに調子づいており、菅総理と頻繁に会っているほか、テレビにも出てきて持論をしゃべっています。おかげで、菅総理の「自助・共助でなんとかして。その上に公助があるから。」という方針は、「年金や生活保護などの社会保障制度をなくした上で国民に7万円配る(ただし全員が7万円もらえるとは言ってない)」というような意味であることが明らかになりました。

社会保障をなくした上での月7万円を「ベーシックインカム」と言って堂々としていられる人は「ベーシック」という言葉の意味を理解していないのでしょう。よくわからない横文字を振りかざす人は世の中を悪い方に変えがちだという事例がまた一つ増えました。

そういう人たちが、健康保険や介護保険には手をつけないという保障はありません。現に給付を外すと言っています。自民党が政権を取り続けたり、ついでに維新系の勢力が伸びる場合は、医療や介護の自己負担は急騰していき、国の保険制度は保険料という名のお金を国民から吸い上げるだけの道具となって肝心の医療や介護を全国民に保障する機能を失ってしまうでしょう。

一部の私企業にとっては、競合となる公共制度が弱体化してくれた方が有利ですし、今の自民党や維新、そしてそれを応援している新自由主義的な人たちは社会保障や教育、保育、文化などへの公的支出や規制は少ない方がよく、民営・私営ビジネス化された市場原理に委ねて商品サービスとして取引されるのが最も合理的であると考えるからです。

これまで自民党は、とにかく改革改革改革、構造改革、規制改革と、口先ではいろいろ言いながら自己責任、競争原理、市場原理を最優先してきました。民営化や民間委託、規制緩和というのは、実際には公共領域のあらゆるものを市場取引の対象として商品サービス化し、「この値付けは市場価値を反映した適正な評価なのですから欲しければ受け入れなさい。嫌ならあきらめなさい」と言うことでした。

その結果、雇用は民間も中央省庁も地方自治体も低賃金非正規が増え、最低賃金は安く抑えられ、大学の学費は高いままで、医療や介護は自己負担が増え給付は減らされていき、労働者を守るための法律は骨抜きになっていきます。

また、教育や医療といった分野も、教育サービスや医療サービスや生活保障が欲しければ自分のお金で買えばいい、自分のお金で買える分で納得しろ。もっと欲しければもっと稼いで投じろというのが新自由主義の理屈です。また、学校や病院の側にも、運営資金が欲しければ、本当に有用な事業なら市場から評価されるはずだから自分で頑張って資金調達しなさい、もっと集客して利用料を取り立てなさいという理屈が押し付けられるため、運営交付金や予算は減らされていきます。現に日本では公立病院はどんどん減らされていますし、教育への公的支出の割合も先進国最低レベルで、もはや先進国といっていいのかわからないレベルです。

一部の経営者や株主にとっては、月給25万円や30万円の正社員や正職員が時給千いくらや月収十何万の非正規従業員になり、公務員が減らされその分の仕事が人材派遣会社や大手広告代理店に丸投げされさらに下請けに出され、残った正社員は限界まで酷使され、大学の学費が年間100万円や200万円以上もし、労働者を都合よく使え、公的保険が全国民に医療と介護を保障する安全網から民間のサービスに比べてやや劣る保険サービスになり、郵貯や簡保が民間の商品に比べて中途半端な金融商品になってくれた方が自分は利益が増えて助かります。そういう人たちが自民党や維新の支持基盤の主力となって資金や人手を提供し、現政権の政策形成に多大な影響力を持っています。

本人たちは「私たちは新自由主義者ではありません」と言うかもしれませんが、実際にやっていることを見れば明らかです。

自民党や維新の会の枠組みは、実質的には竹中さんが総理で菅さんが官房長官で、維新の会が閣外協力しているんだと思いますが、誰が首相でどの内閣になっても自民党政権である限り新自由主義路線を継続していくことになるでしょう。その方が大口の支持者に利益をもたらせるし、自民党とその支持基盤の主流はもうその路線だからです。いま現在、消去法で、なんとなく、消極的に自民党を支持している一般層の人たちの多くも、自民党の政策によってむしろ不利益を受ける可能性が高いです。その人たちは自民党にとって大口顧客ほど大事ではないですからね。

こういう新自由主義のルールはブラック企業に有利なため、まともな企業や事業主まで打撃を受けてしまうのも問題です。

このように自民党はずっと悪い方に改革を進めてきたし、これからも進めていくのですが、安倍前首相は中途半端にいろんな側面を見せるのが上手だったため、新自由主義であることが目立ちにくく、安倍氏が首相である間は「悪い方に変わるよりは現状維持の方がまだまし」という意識はどちらかというと安倍内閣・自民党政権の維持に有利に働いてきたと思います。

しかし、菅総理と竹中平蔵さんに代表されるゴリゴリの新自由主義政権対包括的立憲民主党の構図になったことにより、自民党の方が「変えた結果もっと悪くなりそうな改革」を進める側であり、相対的に立憲民主党側の方が少なくとも今よりそれほど悪くなることはなさそうな選択肢として提示できる可能性が出てきました。

少なくとも立憲政党ならば保険や給付を取り上げたり医療費や保育費、教育費、公共料金を高騰させ、反対する国民を強引に押さえ付けるようなことはしないだろう、というのは実はとても大事なことなのです。

チリなどの場合は穏健左派のミチェレ・バチェレ氏が大統領を務めた後ですら、強権的な新自由主義右派が政権を取り返した途端に公共料金や運賃、学費などが値上がりまくり、抗議する国民に対して機動隊や治安部隊まで動員して殴る蹴るというドアホのような事態になりました。
静岡新聞『チリ、反政府デモで警察から拷問 国連報告書、性的暴力も』 2019/12/14 05:15
https://www.at-s.com/news/article/international/715947.html

「積年の不満、「晴れ舞台」葬る」
https://www.jiji.com/jc/article?k=2019103100832&g=int

一見有能そうな右派に政権を任せるくらいなら、ダサくてトロい左派の尻をしばき倒して政権を担当させた方がまだ安全だということを実感します。

日本はいきなりチリにはならないと思いますが、日本でも新自由主義で利益を得ている右派や、既得権をますます強化したいプレーヤーの皆さんは非常にしぶとくパワフルであり、彼らの主張する改革とは「自分たちがますます有利になるように社会のルールを書き換える」ことなのですから、ちょっと油断して彼らに力を与えたりするとあっという間に元に戻ったりますます悪くなったりします。

その結果どうなるかといえば、将来の見通しが立たないどころか現在の生活すら成り立ちにくくなっています。日本は40年前と比べて総人口は今のところはまだあまり変わっていないですが、出生数、生まれてくる子どもの数は半分になっています。このままでどんな先行きがあるでしょうか。

立憲政党は、「社会保障・公助の土台がしっかりしているほど、お互い支え合い自立しやすくなる」を基調メッセージとすべきです。

また、「自分たちがますます有利になるように社会のルールを書き換える」派に対して、「社会のルールをできるだけ公正にする」のが立憲政党の役割です。どっちのタイプの審判の方がプロ野球やJリーグが面白くなるかと考えても答えは明らかでしょう。

もちろん、多様性、個人の尊重、権利の増進、機会均等、持続可能な発展、気候危機への真摯な対応、自然エネルギー、脱原発、平和、差別の撤廃、格差是正、正規雇用、賃上げ、再分配、権力乱用の防止、情報公開、地方分権などの旗は決して下ろすべきではありません。さらに公共領域の回復と公務員の増員を明確に言えればベストです。

ただしその前に最低限、「最低でも現状維持は果たせる人たちではないか。少なくとも、保険や給付を取り上げたり医療費や保育費、教育費、公共料金、社会保険料を急騰させ、反対する国民を乱暴に押さえ付けるようなことはしないだろう。生活が苦しい所得階層の人の負担をこれ以上増やさないだろう。もしかしたら不十分ながらある程度の改善や前進はできるかもしれない」というぐらいの認識を持ってもらえるようにならないと、選挙で第一党になって政権に手が届くところまではいきません。

その観点では、立憲政党が消費税の減税廃止や所得税増税を財源とするベーシックインカム、MMT、国債と通貨の増発加速、金融緩和の拡大のような尖った政策に前のめりになるのは逆効果です。この人たち大丈夫なのか、この改革はむしろ悪い方に変わる改革ではないかと思わせることは慎むべきです。肝心なのは熱狂やワクワク感、斬新さ、目新しさ、高揚感とか大胆さとかではないのです。ゼロベースなど論外です。むしろ、比較検討した上で渋々ながら、あまり乗り気はしないけど、消極的にでも、今とこれからを守るために、少なくともこれ以上悪くならないように、そして少しでも良くなればという願いも込めて投票してくれる人も含めて、得票を2200万票のラインに乗せられるかというところが重要です。

自民党側・新自由主義側が首相を唐突に代えて竹中平蔵さんなどがハッスルしてしまいますます悪い方向に突き進んでいくのに対して、立憲政党の側は、立憲民主という理念を反映した党名、枝野幸男という党首、「まっとうな政治」という原点を指し示す言葉、社会保障や公助、防貧、社会的支援網、格差是正、人権、公正を重視する政治姿勢、リベラルや左派も参加する協力体制、それから青というアイデンティティーカラーなどの資産を継承した上での包括政党である(新)立憲民主党が主軸となったのですから、その継続という資産を活かして安定を打ち出さない手はありません。

あとは、むやみに横文字を使って、何がやりたいのかよくわからないけどむしろ悪い方向に変わりそうかもしれないという印象を与えないことです。キーメッセージぐらい日本語で言い切れ、ということです。(「キーメッセージ」が英語だったね。ごめんなさい。)

例えば、先ほど言った「社会保障・公助の土台がしっかりしているほど、お互い支え合い自立しやすくなる」は絶対に「土台」でなければいけません。ここでいきなりベースとかベーシックとかセーフティネットとか言ってしまうと台無しです。それはもう少し具体的、専門的、実務的な議論のためにとっておきましょう。

特に旧民主党政権に対しては地方や公共投資に冷淡だったという印象を持っている人もいるため、基調やメインとなるメッセージは「土台」「育てる(育む)」などの日本語で構成した方がいいのです。

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