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2分咲きの恩賜公園にて

満開でも、週末でもないのに、上野公園には人がごった返している。その敷地内のカフェに今僕はいる。送別会まで少し時間を持て余した僕は半年以上も放置していたnoteを開いている。約一年、一つ屋根の下で暮らした末っ子が、先週、札幌に帰った。それからこの1週間というもの、1日も欠かすことなく飲みに出かけている。池袋、赤羽、駒込、新橋、そして今日は上野。

18歳の男子が1年間だが父親と暮らすのは、とてもストレスの溜まることだったろう。受験勉強はマラソンのようなもので、精神的持久力が試される。毎日6時に起きて、夜11時すぎに寝る毎日を彼はついに完走した。勉強時間にはムラがあったかもしれないが、生活習慣だけは崩さなかった。よくやった。

合格発表の日、午後3時の発表まで息子は落ち着きがなかった。第一志望の国立難関大学は五分五分といいつつ、落ちた時のショックを事前に回避するかのように、口では、もう不合格だから、と僕には言っていた。でも、あの落ち着きのなさを見るに、きっと本当に五分五分と思っていたのだと思う。

発表の時間が来た。合格者の受験番号が掲示されるそのサイトに辿り着くまで時間がかかったが、3分ほどでようやくたどり着いたようだった。私は2メートル離れた場所で、関係のないメールチェックをしているふりで自分のパソコンの画面に向かっていた。なにかが破裂するような音で、あった!という声。彼は柄にもなく、私に抱きついた。抱きついた次の瞬間、待って!受験番号もう一回確認する!そう言って受験票を探し、見つからなくて、またスマホに向かって、確認作業に入った。おお!大丈夫だ、そう言ってまた抱き合った。母親に電話をして、祖父母に電話した。良かった。1年間、よく頑張った、と息子に思ったあとで、少しだけ自分もよく頑張ったと思った。特に1月と2月はいまだに家族の誰にも伝えられていない秘密を隠し通した。だから、喜びもひと塩だった。



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