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#19 Continued クリア報酬のないクエストVer.2

義母が無事帰宅してきた。

ひと晩見ていたが、自分でシャキシャキ歩くし、喋りも健在のようだった・・・のはいいのだが、その分、夫はたったの一日も持たずに、もう耐えられないと頭を抱えた。

夫の休日で一番近いところでの退院日だったので、急なことで私は仕事を休めず、朝から義母のお迎えと、その日の昼夜の食事の準備と、夫は今までになくフル稼働で義母の面倒を見ていた。
義母の帰宅、ひいては在宅介護を誰よりも擁護していた夫だったのに、いざ義母と対峙すると、すぐさま、義母の言葉遣いや在り方に不満が充満してしまったようだ。
思わず、夫に、
「はやいって。まだ1日も経ってない。
 こうなることは目に見えていたでしょ・・・」
と、私は呆れたように言った。

義母は、手術とリハビリのおかげで、身体が動かせるようになって、おそらく気分がいいのだろうと思う。また、薬にもようやく身体が慣れてきて、食欲も出てきて、食べられるようになったのもうれしいのだろうと思う。しかし、だからと言って、病前のように動けるようになったわけではなく、今はまだリハビリの効果が持続しているけれど、病院にいた頃よりもはるかに運動力が落ちることが目に見えているので、過信は厳禁なのだが、気分の良い義母は、さも自分が今まで通り、なんでもシャキシャキ自分でやれるようになったと思っているのか、人の会話を上書きするような言い草をし、人の状況は相変わらず顧みずに「自分のこと」をところかまわず主張する。
嫁である私にはまだそこまではないけれど、息子である夫に対しては、そもそもがそういう親子関係だったのも相まって、まだ十分に動けるわけではないのに、息子を子供扱いするかの如く、上から目線で物を言うので、夫はとにかくそれが気に入らない。

こんなことがあった。
それは、食事に関する事だった。
宅食をメインにという私の要望に対して、夫は快諾を示してくれて、義母にその話をしてくれたようだった。
ただ、以前、田舎にいたころも独り暮らしだったのもあり、宅食を頼んでいた義母だったが、とにかく宅食は美味しくないと文句を言っていた。
そういうところがあるから・・・と苦虫を噛み潰すように言う夫に、
「たとえそうだとしても、それしかないのだから、文句を言おうがそれ(宅食)でやってもらうしかない」
私は極めて淡々とそう言い続けるしかなかった。
そして、そんな私たち夫婦の会話などどこ吹く風で、義母は私に、とてもいいことを「思いついた」という感じで、私にこう言ってきた。

「takumiさんに負担かけられないから、宅食にね、しようと思っててね。
 ずっと2,3日前から考えてたのよ。takumiさんに負担、かけられないし」

・・・・・。
義母の食事を宅食メインにするという事については、おそらく何かのタイミングで、夫が義母に話をしていたと思うのだけれど、義母の中では、自分が思いついて、自分で決めて、そして自分から息子に頼んだ・・・という事になっているようだった。
私は、一瞬、ん?!と思ったけれど、そこは最早指摘したところで、無意味なことなので、サラリとかわした。

「ああ、そうですね、はい、なので、明日から試食をいくつかお願いしていますから」

義母はまだ言い募っていたようだったが、申し訳ないが聞こえないふりをさせてもらった。
多分に、褒めてほしかったのかなと思う。または、もともとが自己顕示欲の強いタイプの義母なので、その勝気ともとれる性質が、少し元気になったことで戻ってきたのかもしれない。
しかし、私からしたら、義母に気づいてほしいのはソコではないので、義母の思うような返しは出来なかったし、したくはなかった。
これから一緒に生活をしていく家族となる人なのだ。ことこの手に関しては、私の精神衛生のためにも、積極的に聞かないことを決めていた。そうでなければ、一緒に暮らしていくことは困難である。

義母はお喋り好きではあるが、物事の捉え方に関しては夫と本当によく似ていて、「イヤところばかりを注視して話す」傾向が強い。ということは、話をしていても、正直な話、私からしたら、会話が楽しい相手とはならないのだが、夫とはその辺りのところについて、これまでにもずっと対峙してきた事柄だし、夫婦だし、必要なことではあるけれど、義母とまでその労力を割く気概が私にはない。となると、出来ることは、義母との会話を成立させないという、文字だけで観ると、酷いことのように思うけれど、どうせ義母も私との会話は楽しいと思わないだろう(自分が欲しいリアクションがほぼ望めないから)し、その差異を擦り合わせるには、家族としての経験値がなさすぎる。
義母の病の件がなければ、本当はそこを徐々にお互いに慣らしていって、将来は完全同居でお互いに楽しい生活リズムを作る予定だったのに、こんな事になってしまって、私以上に義母は大変だろうと思うのだが、義母からはそこいら辺の、私が慮る感じのツラさは感じられない。
そこが、私や夫が、この数カ月、延々と苦慮しているところなのだけれど、この期に及んで、そこを義母に是正させるのは、それこそ無理ゲーなのである―――。

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