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東京都の新規陽性者数の動向 4月以降の年代別解析

4月以降の新規陽性者数の年代別データ

4月以降、75日間の新規陽性者数の年代別移動平均を示します。今回75日としたのは、デルタ株の流行期と比較するためです。

1  4月以降の新規陽性者数7日移動平均

20歳代で増加→すぐに10歳代増加→少し遅れて10歳未満のピーク→その後10歳未満も含めゆっくり減少というパターンだったのが、ここ1-2週間は、20歳代までの若年者の割合が多いままに、すべての世代で横ばい(もしかしたら増加)となっています。図1の真ん中は10歳未満、10歳代、20歳代を強調しています。右は片対数グラフです。

行動抑制やマスク着用などの感染防御策がゆるやかになったこと、ワクチン接種の有無、変異株による感染力の上昇、免疫回避による再感染など複数の要素によって微妙に均衡しているのだと思います。

2  積み上げグラフ:デルタ株流行期との比較

図2をみると、デルタ株流行期に比較して、若年世代の患者の割合が高いことがわかります(それでもインフルエンザにおける若年者の割合よりは少ない:通常インフルエンザでは15歳以下で過半数を占める)。この世代が全体の傾向を決めている可能性があります。なかなか感染防御策の難しい世代で、ワクチン接種した方も少数ですから、少し長引きそうです。

ワクチンはどうするか?

さて、それではワクチンはどうすべきでしょうか?アメリカのように5歳以下もワクチンを承認し、積極的に接種していくのがいいでしょうか?

アメリカでは感染者がなかなか減らず、小児の死亡者が千人単位となるなど制御がうまくいっていないという事情があります。日本では状況が少し違いますので、同様には考えられないと思います。

私は成人の3回目ワクチン、ハイリスク者の4回目ワクチンはすすめるべきだと思います。これは次項に示す理由から今までより強く推奨いたします。5〜11歳に関しては、メリットはありますし、今までと同様におすすめはしますが、ご家族でしっかり検討し納得したうえで接種するというスタンスです。

5歳以下に関しては、私はまだ慎重論です。ワクチン中の成分量は少ないので副反応はかなり少ないようですが、感染予防効果も控えめです。どのくらい効果が続くのか、後遺症など防げるのかなどに関してはこれからです。小児では、熱性痙攣やクループなどやや重い方が増えていること、脳症など重症者も出ていること、後遺症例があることが懸念材料ですが、アメリカの状況を少し様子見してからでもいいかなと思っています。もちろん、やっかいな変異株が出現した場合は柔軟に対応とします。

後遺症に関する少し心配な文献

後遺症に関して、ちょっと心配なデータが出てきました。岐阜大学脳神経内科の下畑享良教授に教えていただいた論文3本ですが、ざっと読んでみて、免疫・アレルギーが専門である私にとっては恐いデータだと思いました。図3は下記の論文中の図に加筆していますpre-proofのPDFファイルで、埋め込みができませんでした。リンクをコピペしてご覧ください。
https://doi.org/10.1016/j.cell.2022.06.020

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下畑先生は、呼吸器感染(軽度でも)→嗅覚神経の炎症持続(ウイルスがいなくなっても持続=感染がおさまっても症状が持続あるいは進行)→嗅球を介して中枢神経へ→図3に示すような種々の障害を引き起こすと考察されています。

私が戦慄したのは、たとえばこれに関与する一つの因子、ケモカインCCL11(エオタキシン)です。ケモカインCCL11は、喘息では、慢性炎症→気道上皮障害をきたす好酸球の遊走因子ですが、神経系においては、神経炎症を亢進し、認知機能の低下ももたらします。下記の論文には、老齢マウスの血漿を若年マウスに投与すると認知機能障害が起こること、その原因物質としてCCL11とβ2ミクログロブリンが同定されたことが示されています。

中枢神経で起きるこのような免疫反応は制御しにくく、治療が困難であることが想像されます。「こんなウイルスは今まであったかな?」と考えると、恐ろしくなります。実際に後遺症の方をたくさん診療されている医師は実感されてらっしゃると思いますが、まだまだコロナウイルスはただの風邪とは言えないようです。

もう一つの論文もお示ししておきます。
https://www.science.org/doi/10.1126/scitranslmed.abq3059

専門家会議に免疫が専門の方はいらっしゃると思うのですが、ぜひこのあたりの情報に関してメッセージを発信していただきたいと思います。死の危険は大幅に減少しましたが、後遺症はじわじわと長く続く負の遺産をもたらし、インパクトは決して小さくないと考えられるからです。

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