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daydream(小説)

不可解(おかし)な夢を見ている。
「こんな世界、私が壊してしまうの。」
扉の無い、薄暗い部屋には、中央にテーブルと向き合う2つの椅子があるだけ。4人で食事を取れる程大きなテーブルの上には、23時を表示するデジタル時計のみが置かれている。
「こんな世界、私が壊してしまうの。」
部屋の西側の大きな窓から見える原色のような青色の空が、自分が明晰夢の内にあることを明確に主張している。まるで夢の側から覚醒を所望するかのようにも感じられるが、それに応じる程私も正気ではなかった。
「こんな世界、私が壊してしまうの。」
時計が23時になってから、既に2時間が経過しているが、未だに23時のままである。この夢ではまだ何も起こっていないのだから、それがこの夢における摂理なのであろう。
「こんな世界、私が壊してしまうの。」
眼前の少女は言葉を繰り返す。鮮やかな金髪、紺色のボロボロのパーカーとデニム、痩せた腕。
「こんな世界、私が壊してしまうの。」
少女は徐に銀製のピストルを取り出し、テーブルの上にそっと置く。ゴトッという確かな重さのある音が立つ。
この引き金を弾けば世界は壊れる、と彼女は云う。それは本当であるという確信を、窓の外の青空に感じた。そうすれば私も彼女も、只では済まないのだろうという事まで知れた。
私は、壊したいならば壊せば良いと云った。そして続けて、だがしかし、どうして壊そうと思うのだねと尋ねた。それは説得を試みる手始めのような口振りだった。
「誰も私の事なんて愛していないわ。」
彼女は鋼鉄のような無表情で答える。
「例えばこの夏の青空は、私を孤独な気持ちにする。喉の渇きが、一秒に一秒だけ進む時間が、眠るつもりのない横臥が、『皆何処かで私を嫌ってる』って云うのよ。」
「誰かは誰かを愛している。だから世界は綺麗に見える。でも、誰も私を愛していない。」
そうすると君はアンドロイドか、と私は尋ねる。少女は何も答えない。人間の瞳である。
「なるほど、では君はあの時の」
私は笑顔を見せ、少女の手元の拳銃を手に取り、銃口を自分の喉元に突っ込み発砲した。巨大な銃声が鳴り響き、私は絶命した。
少女は何かに納得したかのように喋らなくなった。少女もまた絶命していた。窓の中の青い空に細い細い雲が横切る。時計は23時と加えて1秒を映した。

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