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ハーモニカ

永年 契約後見で支援を続けているSさん(90代)は、音楽がとても好きだ。数年前まで、琴の師範としてお弟子さんを持たれていた。地縁の碑が建立されたお祝いの集いで、妹さんとの琴の連弾(つれびき)で、「春」(春のうららの隅田川~)の調べが光則寺の境内に流れたのを思い出す。
最近は、お琴は仕舞われて、専ら身軽なハーモニカを楽しまれている。施設の新年会、節句のお祝い、暑気払いの集まり、クリスマス会などで、時節に因んだ曲を選び、ハーモニカ演奏用に編曲、披露し会場を盛り上げられている。時々、選曲や構成について意見を求められる。練習も毎日重ねるらしい。
皆さんは、ご存じだろうか?ハーモニカには、調毎に1本1本別になっているものがあることを。例えば、G minor(ト短調)の曲には、G minor用のハーモニカがある。Sさんの引出しには、頭陀袋(?)があり、中には、20~30本はあるか、何本か分からないハーモニカが収まっている。ほとんどの調が揃っているのかも知れない。
先日、私たち支援員二人もお手伝いし、ハーモニカの整理をした。というのは、ケースが全て同じで、外見からは、すぐに望みの調のものが見付からないのである。支援員が用意した調を記したラベルを、それぞれのケースに貼り付けていく作業だ。段取りは、一つずつケースからハーモニカを取り出し、Sさんが吹いて調を特定し、ラベルを貼っていく。
作業を始めると音楽会が始まった。Sさんが、調を特定した後、その調の代表曲のさわりの旋律を解説付きで演奏してくださる(最初は、曲名は内緒、最後に曲名と解説)。例えば、G minorだと、モーツァルトのジュピターの一つ前の交響曲40番、G majorでは、同じく「アイネクライネ」等々、次々に聴き覚えのあるメロディーが続くが、曲名までは分からないのがほとんど。好みのブラームス交響曲第2番 D majorもあったかと思う。
結局、その日は施設の面会時間を大分オーバーしてしまった。最後に辞去の挨拶の後、Sさんが独り言のように、「今日は、本当に楽しかった。」と満足気に一言呟かれた。支援員同士思わず微笑み。そして帰路、余技もここまで極められたらと、とても羨ましく感じる。(H)