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墨を磨る

書の墨を磨る時、墨を握りしめ、力いっぱい、一所懸命に磨るのが良いと思っている方は多いと思います。これから書く意欲が墨に宿ってのことかもしれません。
でも、実はその逆。墨を硯にそっと触れさせるぐらいで、ゆっくり優しく磨るのが良いのです。病み上がりの人に磨らせるとよい、と聞いたこともあるくらいです。

固形の墨は硯との摩擦によって粒子が分解され、水と一体になって液墨になります。この粒子は細かければ細かいほど、伸びのある書き心地のよい液墨を作ってくれるのですが、力いっぱいガシガシと磨っていくと、粗い粒子となり水とうまく調合しません。そうなると、滲みが多く、発色もよろしくない液墨になってしまいます。

墨に込めるのは手の力ではなく、心。墨が硯にそっと触れる感覚を堪能してください。下りていく(磨られていく)墨が粘度を増すことや、てらてらと光る彩色があらわれること、また墨と硯が共に響かせる美しい音に気づくと、心はととのってきます。




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