70歳代女性 発熱
今朝はなんともなかった。
午後になりは熱と鼻汁を認めたために、同日夜8時に救急外来を受診した。
意識清明、BP126/79、P117reg、SpO2 95%(RA)、BT39.8℃
頻呼吸はなく、general appearanceは良好なようです。
既往歴は脂質異常症と慢性中耳炎、鼻炎。
手術歴はなし。
処方薬はミノサイクリン、モンテルカスト、ベタメタゾン-クロルフェニラミン(少なくとも3週間以上前から内服)、アトルバスタチン、エゼチミブ。
アレルギーなし。
社会歴はADL自立で、夫と娘の三人暮らし。子供との接触なし。
発熱の鑑別はhttps://youtu.be/EoQCB9gepgM?si=SCopcfJXvnvoPCWMです。
第一印象は、病歴が短すぎてよくわからん、です。発熱してからまだ時間が8時間以内です。発熱とそれに伴う頻脈以外にバイタルも狂っていないので、経過観察するという選択肢はなりたちます。しかし慢性的にステロイドを飲んでいるcompromised hostというのがちょっとひっかかります。
とりあえず、発熱のアルゴリズムで臨床推論してみましょう。
まずはStep 0。いわゆる風邪を疑います。もともと鼻汁あるが、咽頭痛や咳嗽はありません。典型的な風邪とは考えにくいけど、ちまたではコロナがまだ流行ってますので除外しきれません。インフルもコロナほどではありませんが、まだ流行っています。検査前確率が高いので、インフルとコロナはLikelyです。
他のウイルス性の感冒もあります。でも子供との接触はないようです。家族で同症状の人もいません。sick contactのこころあたりはありません。
Step 1はよくある細菌感染症です。肺炎はADL自立しているし咳嗽の訴えはありません。頻尿症状やCVA叩打痛はないけど、腎盂腎炎はありえます。結膜黄染やMurphy徴候、肝叩打痛もないけど、胆管炎はありえます。発熱以外に症状がない胆管炎はたくさんみてきました。皮疹はないようで蜂窩織炎や丹毒は否定されます。
次のStep 1-2は症状ができにくい感染症です。感染性心内膜炎を示唆する心雑音はありません、OslerやJanewayは未確認です。肝膿瘍を示唆する肝叩打痛なし、腸腰筋膿瘍を示唆する動作時痛なし、女性なので前立腺はなし、骨髄炎を示唆する局所的な痛みはありません。これらは検査前確率が低いのでLess likelyですがあたまの隅っこには置いておくべき疾患群です。
ミノサイクリン内服中だし、皮疹もないからツツガムシは事実上ありません。麻疹や風疹などを疑う皮疹なし。海外渡航歴はないので、難しい感染症はまずは考えなくてよさそうです。
Step2は入院患者に多い発熱。まずは薬剤性はLikely。下腿浮腫はないけどDVTは考慮しておく。手術、輸血歴はなし。下痢ないからクロストリジウムは考えににくい。偽痛風を疑う関節痛やクラウンデンスを疑う頸部痛もない。体内デバイスの留置なし。内分泌疾患として、甲状腺機能亢進症も挙げておく。
Step3は網羅的な診断。VINDICATEです。
白血病を疑う点状出血なし。固形癌を疑うには急すぎる。PMRや側頭動脈炎を疑う筋肉痛や頭痛なし。
以上より、明日も平日で内科外来は空いているからとりあえず解熱剤で帰宅という選択肢も許容されます。ステロイド使っているから採血など介入するというのもあり得ます。
担当医はコロナとインフル確認と、採血と血液培養を選択しました。
コロナとインフル陰性。採血では炎症反応と肝胆道系酵素上昇を認めました。以上より、急性胆管炎による発熱と考えるので、次のステップは画像評価です。
しかし、担当医の判断は異なり、ここで中耳炎の増悪と診断されCTRX投与後に帰宅となっています。当院ではフォローされていません。この地域で緊急性を要することになっていれば当院に搬送されるはずですが、その記録はありません。
結果として抗生剤投与と血液培養陰性だったから大事に至らなかったのだと思います。帰宅は良いけど、もうワンポイント採血で確認または画像評価が必要な症例だったと思います。
本症例はマネジメントに少し問題があったのかもしれません。以上のように、失敗と思われる症例だからこそ学ぶべきことは多いです!