感想「眺め」鎌田航(第5回徳島新聞 阿波しらさぎ文学賞 徳島新聞賞)
第5回徳島新聞 阿波しらさぎ文学賞で徳島新聞賞となった鎌田航さんの作品「眺め」が公開されたので読みました。
https://www.topics.or.jp/articles/-/758663
語り手がひたすら自分の人生を阿波弁で喋るというもので、一括りに阿波弁と言っても地域によって微妙に異なる言い回しはあるので、ところどころわからない部分がありました。筆者が鳴門の方なので、多分鳴門ではこういう言葉を使うのだろうな、とか、物語の主人公は昭和初期の時代を生きた人なので、参考文献があるところを見ると昭和初期の阿波弁なんだろうかと読みながら考えてみたりするところもありました。
阿波弁の微妙なイントネーションはやはり話し言葉ということもあり、文字よりも音として聞く方が物語は頭の中に入ってくるような印象です。
冒頭の
というところは、「火つけた」は「ひつけた」ではなく阿波弁では概ね「ひぃつけた」という発音をするように思うので、作品のところどころにルビはあるのですが、この「火つけた」の部分は「火つけた」となっていた方が声に出して読んだときは流れが良いように感じました。
ただ、発音の解釈は地域によります。
そういう阿波弁のイントネーションは、文字から読み取りきれないところがあって、そこが文字だけでだらだらぼそぼそと阿波弁で喋る語り手の雰囲気は、作者の意図するところまで読者として自分は読み取れていないのではないだろうかという気持ちはしています。
朗読でべたべたの阿波弁で読み上げて欲しい作品です。
いまは、ここまでべたべたの阿波弁で喋る人は高齢者でも減ってきているように思います。
地域によってはこの作品に近い感じで喋る人もいるのでしょうけれど。
物語は眉山山頂にあるパゴダから周辺の景色を眺める描写から始まります。
最初は現在のパゴダの回りに集まった人々について、かなり濃い阿波弁で喋っているな、という印象なのですが、そこから語り手が話し始めた内容に違和感を持つようになります。特に
で、「音吉? 誰、それ? いまどきそんな名前の人っておる?」となり、その前に「しゅんどうけん」「あばさかった」の意味がわからなかったので、語り手がなにを喋っているのか混乱してきました。
その後、次々と語られる内容から、語り手は戦前生まれで、第二次世界大戦でビルマへ出征し、戦場で死んだことが最後にわかる描写となったところで、冒頭の語り手が眉山のパゴダに眠る戦没者だったと繋がります。
途中で、語り手以外の声が混じっているのか、語り手が他の声を聞いて(主人公と同じような死者が喋っているのかもしれないし、語り手の声を聞いた生者が喋っているのかもしれないような曖昧な感じですが)文句を言っているところもあるのですが、なんか無線のチャンネルが混線しているようなざわつく感じがあって、語り手の世界に引き込まれていたところをふっと元の世界に引き戻されるような印象です。
わたしは過去、眉山山頂のパゴダの中は一度だけ中を見たきりで、それも改修前だったので、中の様子がかなり変わっているのだろうかと思いながらも、見慣れたパゴダの、作品冒頭の青空に映える白いパゴダの景色と、最後の夜に仄かに光る作業灯の明かりだけの景色へと移り変わり、そのまま視界がシャットアウトする感じが良かったです。
題名の「眺め」は、最初は眉山山頂からの眺めかと思っていたのに、最後の最期の語り手の一言で冒頭、中盤の「目」から最後の「目」への一文で回収される「眺め」が見事だと感じました。
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