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神在月


『今日はあれかい?』
「そうなんです。
やはり、少し緊張しますね。」
『大丈夫じゃよ。思うままに。』

「あの猫ちゃんはどうなったんですか?」
『あぁ、次も猫だね。
では頼みましたよ。』

光の中へ向かう背中を見送った。

私はふかふかのソファーに腰掛け広く見渡す。

一息つき、第三の目を開く。


「よく図書館にいるあの子、高校生になったのね。…水泳。」

「駅のホームで泣いてる男の子は…書道。」

「コンビニの店長、
時計ばかり見てソワソワしてるわね。
あと1時間で産まれる。作曲。」

感覚でしかないのでうまく説明はできないが、10月になるとこうして一部の人間に才能を与えていく。

遊園地、高層ビル、空き地、ベランダ、サービスエリア…人が存在する全ての場所に意識を向ける。


ふと、違和感。

屋上から空をみている少年。

それ自体はよくあることなのだが、
なぜ私と目が合っている。

見上げる人間の目には
空しか見えていないはず。

その少年に何か才能を与えた記録はない。

しばらく観察していると
毎日のように屋上にいることが分かった。


その日は珍しく夜にやってきたので
星を流してみた。


『返して。』



あの猫ちゃんのことだろう。

たったひとりのともだちだったと
知っている。


少年の中に微かな音を響かせてみる。

「トンネル公園」

少年の目に光が宿り
夜の町に駆けていった。