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操 -そう-
バスから降りると受付を横切り
いつものように階段を降りていく。
誰かと来ている人は
学科や仮免の話で盛り上がっている。
一緒に来て一人だけ落ちたら気まずくないのかな、と余計な心配をしてみる。
特に二人に興味はないが
ぼーっとしようにも耳に届いてくるのだ。
ギャルはハイヒールから
備え付けの靴に履き替える。
いろんな人が履いた靴を借りるなんて気持ち悪くないのかな。
こういうのを借りるのは大体女性で、
女性の方が細かいことを気にしないものか。
などと、自分の謎理論に納得する。
チャイムが鳴り決められた番号の車へと進む。
『よろしくお願いしまーす。』
第一印象で決めるのはよくないかもしれないが、恐らく私はこの指導員と合わない。
振る舞いも言葉のリズムも…なんか嫌だ。
アクセルを踏んでしばらくして
先程の直感は当たっていたのだとすぐに確認できた。
『兄弟はいる?一人っ子でしょ。』
指導員は運転中も話しかけるというマニュアルがあるのかもしれない。
「一人っ子です。」
私はこの人と会話をするよりも運転に集中したいので、一人っ子ではないが会話を終わらせるためにそう答えた。
『そうだと思った。
甘やかされて育ったような運転の仕方だもんね。』
は?こいつは一体なんなんだ。
この一瞬で私の何が分かって
何を得意気に話しているのだろうか。
最悪の気分に包まれながら
どうにかその時間をやり過ごす。
言い返すことはできなかったが
二度とこの指導員に当たらないように手続きをして帰る。
イライラとこれまでの経験が蘇り混ざり、
心の中は重く濁っていくが、
建物から出ると少しだけ気持ちが晴れた気がした。
帰りのバスがスムーズに到着したこともあって
心に少しゆとりができたようだ。
どんどん進んでいく景色を眺めながら
自動販売機の数を数えてみる。
たまに自動販売機に似ているけど自動販売機ではないものがあって、自動販売機ではないのだなと思ったら自動販売機のときがあるからややこしい。
急いで数を訂正する。
そんな遊びをしながら心地よく揺られる。
「あっ。」
存在を思い出しそっと、口元へ運ぶ。
途端に広がる甘い香り。
すぐに思考はあの人へと向かう。
あの人のお気に入りの飴。
口に含めば同じ甘い香りに包まれる。
その事実が私を幸せな気分にさせた。
そのまま唇が触れたら
それはもっと甘いのだろうか。
舌でころんと転がしてみる。
ふふっ。
すっかり意識を持っていかれてしまい、
自動販売機を数えるのを忘れていた。
「私の負けだ。」