![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/87813230/rectangle_large_type_2_99e6db8dc19d9a301cc926e902bd33c3.png?width=1200)
「こんにちはニンゲン」
【この企画・作品について】
4人の作者さんと一緒にリレー形式で
《1つの作品》を作りました。
作者の方たちは誰と一緒に作っているのか内緒にしたまま物語を紡いでいただきました。
任務として
①指定ワードを入れる
②指定登場人物を入れる
③タイトルを誰かが決める
というのがありました。
こちらには作者さんの名前入り台本を置かせていただきます。
---------------
【ぐぅ】
揺れる電車。
揺れるつり革。
揺れる私。
何の変哲もない日々に嫌気がさし
突発的に家を飛び出したのは
社会人になって8年目の事だった。
何を求めているのだろうと
自問自答を繰り返してきたが
答えはおろか片鱗すらみえてこない。
もっと計画的に進めるべきだったのか。
いや、これでいいんだ。
物語の勇者も、ある日突然に勇者になる。
私の人生という物語の主人公は、私しかいないのだから。私は今日から勇者だ。
青春時代は『百人一首』と『けまり』にあけくれ、冒険らしい事なんてした事がない。
この物語は、そんな私の全てを捨てて始まった大冒険。
(終点駅です。お忘れ物にご注意下さい。)
【福羅巧実】
知らない路線の知らない終着駅。
仕事をしている時はあんなに嫌だった電車が、景色が移ろう度に、私の好奇心と心拍数を上げていった。
駅員もいない無人の改札
広がる田園風景
絵に書いた様な、田舎だ
「これからどうしようかな…」
大きなボストンバッグを2つ携えたワタシは
駅前で佇んでいた
そこに小学3年生らしき男の子3人が近付いてきた
子供A「だれ、この人」
子供B「見たことねー顔だな」
子供C「こいつ全身緑色じゃん、ピーマン星人て呼ぼうぜ」
ワタシの顔面はその瞬間パプリカのように赤くなった
「誰がピーマン星人だ!!」(ゆっくりとした口調で恥ずかしさを表すように歯を食いしばりセリフを言って下さい)
※決してツッコミにならないように
ワタシは子供に言われて気付いた。
突発的に家を飛び出したため、緑のセットアップという先進的なファッションで来てしまった。
遠くでまだ子供の声が聴こえる
子供C「ピーマン星人め、この村は俺達が守るんだ、侵略させるものか!」
とりあえずワタシは、これまた緑色のボストンバッグを開け、調理家の平野レミさん監修の調理用フライパンを取り出して子供達にフライパン曲げをして見せた
まさか平野レミさんもこのような使い方がされるとは思ってないだろう
子供達は恐れ戦き遠くへ走っていく
「ピーマンは間違ってるけど、何でワタシがこの星の人間じゃないってわかったのよ」(遠くを見つめるようにやや小さめの声で弱々しく)
そう、ワタシは出来心で地球にやってきた
異星人
この辺鄙な星の、辺鄙な場所で
ワタシの物語は急展開を迎える
【小枝】
少し歩いて行くと、
さっきの子ども達が畑で
プチトマトをねだっていた。
子供A「じいちゃん、コレもう赤いから食べてもいい?」
おじいさん「みんなで食べたらええ。」
そーっと通りすぎようとしたけれど、
子供C「あっ ピーマン星人だ! 」
見つかってしまった。
おじいさん「これ!やめなさい。こんにちは、旅行で来られたのかな?」
「こんにちは。いえ、旅行ではないんです…」
ワタシの様子から何かを察したのか、
おじいさん「そうなのかい。詳しくは聞かないけどね、よく考えた方がいいですよ、まだ若いんだし。今夜泊まる所はあるのかい?」
「いえ、何も決めずに来ちゃって…」
おじいさん「そうかい、それならちょっと待ってなさい。ばあさんに聞いてみる…あ、これ!お前達にはごぼう抜きはまだ無理じゃて、やめなさい。」
「そんな、申し訳ないです、何とかしますから💦」
おじいさん「いや、タダでとは言わん。ワシらはお店をしていてなぁ、その手伝いをしてくれたら充分じゃ。ばあさんもいいと言っとる。好きなだけ居たらええ。」
…こんなに優しい地球人もいるんだ。
ワタシはお店を手伝う事になった。
そして、このお店が全ての始まりだった。
【黒磯】
「9回裏2アウト バッターボックスにはゴメス!今シーズン二度目のノーヒットノーランを許してしまうのか!」
蒸し暑さと蝉の声の残る8月後半。
ラジオから届く景気の悪い実況が、煩わしさに拍車をかける。
近年の世界的なエネルギー不足により、エアコンはもちろんテレビの使用も規制がかかっているのだ。
私はというと、あれから老夫婦のお店を手伝っている。
昔からある小さな駄菓子屋。
手伝うといってもあまりに暇で、
番台から眺める景色の変化を無理やり楽しむことにしている。
子供C「あ、ピーマン星人だ!」
奇しくも私とこの老夫婦を結び付けてくれた天使は、この店のお得意様だ。
子供C「ピーマン星人って、何で怒らないの?」
私は異星人。
だが、子どもはからかった相手が怒ると喜ぶ事は知っている。
ワタシ「怒るのにもね、エネルギーが必要なの。そんな貴重なものもったいなくて使えないわ。」
あまりに味気ない返答に、熱が冷めきった天使は手に取った「らぁめんばばあ」を指さしながら舌を出した。
子供C「おもんな!この村からはよ出ていけー!」
「こら!また来たんか!」
奥から唐突に助け舟がやってきた。
分が悪いと見るや否や、天使は羽を広げそそくさと去っていく。
おじいさん「いつもすまんのぉ。あの子も悪い子ではないんじゃが」
ワタシ「大丈夫です。私には感情というものがないので何を言われても平気です。」
おじいさん「そんなことなかろう。ここにきて1年余り。わしもばあさんもあんたの優しさは十分わかっておるぞ」
ワタシ「ありがとうございます。お二人には感謝という気持ちを一生懸命持つようにしています。」
おじいさん「ハッハッハ。感謝は無理して持つもんじゃないぞ。それにあんたの様子からも十分伝わっておる。」
勇者にはなれなかったが、この人たちのおかげで少しは人間らしくなれただろうか。
楽しい。この街に来てよかった。
私は異星人。でも地球人になりたい。
そう思い始めた矢先。事件は起きた。
夜風のにおいが秋を感じさせ始めた頃。
爺さんが倒れた。
いや正確には倒れたのではなく、倒された。
あたりには白い粉と黒ずくめの男たち。
ちょうど薄い雲が真っ白な月を霞ませるように奴らはやってきた。
婆さんはウシガエルのようないびきをかいたまま寝入っている。
散らばった粉を手に取りひとなめ。
「ペロッ、これは青酸カリ!?」
この時からの記憶はあまりないが、確かに覚えているものがある。
怒り。
この星に来て始めて感じたものだった。
私は全身をたぎる黒く鋭いその衝動をありのままに開放した。
もうどうにでもなってしまえ。
私は異星人。
私の叫び声は夜の静けさと相反していた。
数日後
砂味がかった白い天井が見える。
体中につけられたコードのせいか身動きが取れない。
この景色に楽しみを見つけ出すことは難しそうだ。
ドアの方からか、微かに声が聞こえる。
黒服「今回もご苦労様でした。こちらが代金です。」
おじい「どうも。どうも。今回のは懐かせるのに1年もかかってしまったわい」
黒服「いえいえ。おかげで数年は日本の電力不足はなんとかなりそうです。」
おじい「街の人もみんなルールを守って接してくれたおかげじゃよ。あ、でも一人無理やり怒らせようとするガキがおったのぉ。名前を伝えておくから対処しておいてくれ。」
ああそうか。私は利用されたんだ。
みんな知っていたんだ。
黒服「では次のターゲットが見つかり次第またご連絡します。余ったエネルギーは諸外国にも高く売れるので報酬は弾みますよ。」
おじい「ハッハッハ。商売繁盛繁盛。またお店の手伝いを探さんとな」
ああ、これが哀しいかぁ。
人間の感情を全て理解したと同時に、私のエネルギーは底を尽きた。