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足袋

バスに乗って駅まで行く。
1番線の電車にのって約15分。2駅目でおりる。
改札を抜けて右にすすみ、高架沿いをまっすぐ。
その後何回か曲がって、建物の階段をおりる。

行き方を頭の中で何度も何度も繰り返しながら目的地に着いた。

扉を開く。

私には場違いの綺麗なお店。
大人の世界みたいでまだ慣れない。

見たことある着物を着た人たちがパタパタせわしなく行き来する。

:「あ、今着いたの?
一年生なのに一人で来れてすごいねぇ。
お母さん呼ぶから待ってね。」

「うん。」

いつも声を掛けてくれる人。

着物姿のお母さんに案内され
私はすみっこの席にひとり座る。

大人が食べるようなすき焼きを食べながら
お母さんの仕事が終わるのを待つ。

客席は大人ばっかり。
みんな誰かと話してる。

『食べた?行こか。』

お店から離れたマンションに向かい
慣れた手つきで着物を脱ぐお母さん。

最後に足袋を脱いだので私はそれを受け取り
後ろについてる変なボタンをつけたり外したりして待つ。

車での帰り道、
料理長やマネージャーの愚痴を聞く。

要領の悪さがどうのこうの。

家に着くとお母さんが用事を済ませる気配を感じながらCDプレイヤーのスイッチを押していつもの曲を聴く。


バサッ

無造作に洗濯物が取り込まれ
その中から足袋をみつけ
後ろについてる変なボタンをつけたり外したり。

夜になるとサングラスをかけた男が出てくる奇妙な物語を見た。

不気味な音楽が耳から離れなくて
一人で眠るのが心細くなる。


歯磨きをし終わってリビングに行くと
お母さんがみかんを食べていた。

お母さんが食べているものはなんでもおいしそうに見えてしまう。

「一口ちょうだい」
『またぁ?すぐちょうだい言うなぁ。
はい。』

「うわぁ。食べられへん。」

『どうしたん?まずいん?
あー歯磨きした後やから味が変なったか!』

思わず泣いてしまったのは
口の中が気持ち悪かったから。