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推しが尊い


Yeah!めーっちゃホリディ♪
ウキウキな夏希望♪
yeah!ズバッとサマータイム♪
ノリノリで恋したい♪

「はーん、マジあやや様最高。
なぜ私はあやや様が活動しているその時に!
あやや様に出会っていないのか。
失態。マジ失態。
…ん?失態の使い方あってる?」

メイクポーチの中からアイシャドウを取り出し、指で控えめに色を重ねていく。

「ん〜♪んん〜♪i@yume../〜♪」
あ"ぁぁー!

衝撃的でしかなかった。
あやや様の歌の力を借りてもハイになれないなんて。

一旦鏡を伏せ、メイクポーチのファスナーを閉め、姿勢を正して、目を閉じる。


「…なんだっけ。」

わからないバカなフリをしても、頭の中は簡単に現実を突きつけてくる。

もう一度鏡を見て顔を仕上げていく。

『ゆなちゃーん!
もう準備できてるの!?
そろそろ行く時間じゃな…「わかってるよ!」

「沼っていたい。沼っていたい。
あやや様の音の世界に沼っていたい。」

重すぎる腰を上げ超絶キュートな自分の部屋に別れを告げる。

この部屋に私は無事帰還することができるのだろうか。…ん?帰還の使い方あってる?
なんだかこれはあっていそうな気がした。

玄関でスニーカーを履いているとお母さんが心配を隠した笑顔で見送りにきた。

『ゆなちゃん。』
「大丈夫、いってくる。」

扉を開き、外の空気を全身で感じる。

6月5日、日曜日、晴れ。
お出かけ日和です。
これは大変お出かけ日和です。

車の音、人、カラス、誰かの家。

たくさんの気配を感じながら駅まで歩く。

自動券売機の前に立ち、二駅先の時守駅の切符を買う。

乗りたい電車はすぐに到着したが、一本見送ることにした。

構内の隅っこに立ち、ゆっくりと視線を動かして環境に馴染んでいく。

そして次の電車に乗る。

たまたま空いた席に座ってみようかと悩んでいるうちに、そこは人の気配に埋もれていった。

手持ち無沙汰になりそうなわたしを助けてくれたのは、車内にある路線図。

読み込んでいるうちに到着のアナウンスが流れた。

あやや様。わたくし時守駅に降り立ちました。
目的地はすぐそこであります。

緊張と不安と高揚。ドキドキ。ドキドキ。



拝啓あやや様。

わたくしは今BEAR caféにおります。
アイスコーヒーを注文し席に座っております。
一口飲んでみたアイスコーヒーは苦く、全て飲みきることができるのか不安ではあります。

しかし今の気分はといいますと、少し自分が誇らしいのです。人間関係に悩み家に閉じこもって約一年。誰にも会いたくありませんでした。
外に、出られませんでした。

そんな中わたしがこのように明るい気持ちを維持できましたのは、あやや様の歌声とあやや様のパフォーマンス動画に支えられたからであります。

あやや様に背中を押していただいた気分になった時、家族の前で宣言したのです。「次の日曜日、晴れたら5時までにBEAR caféに行ってくる」と。外に出てみようと思ったのです。

すぐに取り消したい気持ちになりましたが、一歩踏み出すタイミングを逃したくはなかったのです。わたしは、5時までに到着できたのでしょうか。

あやや様、時間を確認いたします。

…16:30。4時半。4時半ですよね?

間に合った。ちゃんと…来れた…。

ここに来るだけ。
ただそれだけの予定をこなしただけなのに、感動で、震えた。

ふと、あやや様の歌が頭に流れた。

新しい自分を♪応援したげたい♪

「推しが尊い。」