![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/78954040/rectangle_large_type_2_bb2e8bff15017c9e239f19adc59ec42b.png?width=800)
推しが尊い
Yeah!めーっちゃホリディ♪
ウキウキな夏希望♪
yeah!ズバッとサマータイム♪
ノリノリで恋したい♪
「はーん、マジあやや様最高。
なぜ私はあやや様が活動しているその時に!
あやや様に出会っていないのか。
失態。マジ失態。
…ん?失態の使い方あってる?」
メイクポーチの中からアイシャドウを取り出し、指で控えめに色を重ねていく。
「ん〜♪んん〜♪i@yume../〜♪」
あ"ぁぁー!
衝撃的でしかなかった。
あやや様の歌の力を借りてもハイになれないなんて。
一旦鏡を伏せ、メイクポーチのファスナーを閉め、姿勢を正して、目を閉じる。
「…なんだっけ。」
わからないバカなフリをしても、頭の中は簡単に現実を突きつけてくる。
もう一度鏡を見て顔を仕上げていく。
『ゆなちゃーん!
もう準備できてるの!?
そろそろ行く時間じゃな…「わかってるよ!」
「沼っていたい。沼っていたい。
あやや様の音の世界に沼っていたい。」
重すぎる腰を上げ超絶キュートな自分の部屋に別れを告げる。
この部屋に私は無事帰還することができるのだろうか。…ん?帰還の使い方あってる?
なんだかこれはあっていそうな気がした。
玄関でスニーカーを履いているとお母さんが心配を隠した笑顔で見送りにきた。
『ゆなちゃん。』
「大丈夫、いってくる。」
扉を開き、外の空気を全身で感じる。
6月5日、日曜日、晴れ。
お出かけ日和です。
これは大変お出かけ日和です。
車の音、人、カラス、誰かの家。
たくさんの気配を感じながら駅まで歩く。
自動券売機の前に立ち、二駅先の時守駅の切符を買う。
乗りたい電車はすぐに到着したが、一本見送ることにした。
構内の隅っこに立ち、ゆっくりと視線を動かして環境に馴染んでいく。
そして次の電車に乗る。
たまたま空いた席に座ってみようかと悩んでいるうちに、そこは人の気配に埋もれていった。
手持ち無沙汰になりそうなわたしを助けてくれたのは、車内にある路線図。
読み込んでいるうちに到着のアナウンスが流れた。
あやや様。わたくし時守駅に降り立ちました。
目的地はすぐそこであります。
緊張と不安と高揚。ドキドキ。ドキドキ。
拝啓あやや様。
わたくしは今BEAR caféにおります。
アイスコーヒーを注文し席に座っております。
一口飲んでみたアイスコーヒーは苦く、全て飲みきることができるのか不安ではあります。
しかし今の気分はといいますと、少し自分が誇らしいのです。人間関係に悩み家に閉じこもって約一年。誰にも会いたくありませんでした。
外に、出られませんでした。
そんな中わたしがこのように明るい気持ちを維持できましたのは、あやや様の歌声とあやや様のパフォーマンス動画に支えられたからであります。
あやや様に背中を押していただいた気分になった時、家族の前で宣言したのです。「次の日曜日、晴れたら5時までにBEAR caféに行ってくる」と。外に出てみようと思ったのです。
すぐに取り消したい気持ちになりましたが、一歩踏み出すタイミングを逃したくはなかったのです。わたしは、5時までに到着できたのでしょうか。
あやや様、時間を確認いたします。
…16:30。4時半。4時半ですよね?
間に合った。ちゃんと…来れた…。
ここに来るだけ。
ただそれだけの予定をこなしただけなのに、感動で、震えた。
ふと、あやや様の歌が頭に流れた。
新しい自分を♪応援したげたい♪
「推しが尊い。」