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ティースプーンとコーヒー

【この企画・作品について】

他の作者さんと一緒にリレー形式で
《1つの作品》を作ってみたらどうなるのか、
という初の試みです🌱
作者の方たちには他に誰が参加しているのか内緒にしたまま物語を繋いでいただきました。

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【うなじ】

「スプーン曲げられる?」
転校してきたばかりの僕に最初に声をかけてきたのは、クラスで一番の変わり者だった。
呆気にとられている僕を尻目に、彼はポケットから取り出したティースプーンを慣れた手つきでこすりながら、ついてこいよと教室の外に目線を移した。
慌てて荷物をまとめて彼の背中を追い、校舎を繋ぐ踊り場に出る。
秋風は少し冷たく時にビュッと吹き荒れて、僕たちの髪をハラリと乱した。
手短に校内を案内してくれている間も、彼の左手はずっとスプーンをこすっている。
当然と言うべきなのか、小さなティースプーンは1ミリも曲がっていない。そのことを彼も特には気にしていないようだった。


【ぐぅ】

校内を一通り周り終えると
彼は無言で靴に履き替え
正門とは真逆の校舎裏へと歩きだした。
曲がらないスプーンを見つめながら、彼の後をついていくと、校舎裏に施錠された裏門と、その先の大きな森へ続く一本道が見えた。
彼は裏門の施錠を解錠し森へと向かう。
どこに向かうのか?
なぜ鍵を持っているのか?
気になる事は様々あったが、その時は何故か聞くのをためらい、後に続いた。
すると、森の奥深くに、その場に似つかわしくないコンクリートの建物が現れた。
「着いたよ。少し待ってて。」
彼は僕にそう言って建物の中に入っていった。
3分ほど待っただろうか。
先ほどのティースプーンを見せながら戻ってきた彼が、僕に近づいて言った。
「スプーン曲げれる?」
その瞬間、スプーンの先端がグニャリと曲がり地面に切れ落ちた。


【mika】

『いやいやいや!ずるいずるいずるい、スプーンすり替えてますやん!あんな長い時間こすっててぜんっぜん曲がらんかったのに、いきなり消えたーおもて、戻ってきたーおもたら、グニャリカランコロンカランって!無理ありすぎやしドヤ顔きついっすわー!ほんでここどこやねん!』
(コテコテの関西弁でお願いします!関西弁間違ってる所あったら、変えてもらって大丈夫です!)

僕はまくし立てた。いきなりこんな訳の分からない所に連れてこられ、いかさまを見せられたのだ。そろそろ僕が主導権を握ってもいいだろう。

明らかに動揺している彼を見て、クラスで1番の変わり者も動揺するんだなと、吹き出しそうになるのを堪えていると、

「ありがとう」

突然彼がそう言った。


【しんご】

「やっぱり君だったんだね。」
彼は大きな目に涙を溜めながら微笑んだ。
僕はそのクシャクシャの笑顔に見覚えがある事に気づいた。
僕は幼少期をこの街で過ごした。
両親の離婚で北海道に移り住み、
受験を控える今年、また大人の都合でここに戻された。
彼はたっくん。
家が喫茶店で両親とよくその店に行っていた。
恥ずかしがり屋で友達が出来なかったぼくをいつもこうやって無理矢理引っ張っては遊んでくれた。
『変わらないなぁ。たっくん。』
君はいつも不安な顔をしているぼくを笑顔にしてくれた。
ありがとう。久しぶりだね。
ぼくも自然と涙が溢れた。
「たっくん?違うと思うよ?」
・・・違うんだぁ。終わった・・・。


【生野大輔】

「ウソだよ。何、青ざめてんの?(笑)そう言うところも全く変わってないね。(笑)」
「さぁ入って。」
と、たっくんは僕をコンクリートの建物に招き入れた。
辺りは少しずつ暗くなり、秋風がさらに冷たくなっていた。
コンクリートの建物の中は、木で装飾されていた。
「はい、どうぞ。僕がいれた最初で最後のコーヒーだよ。」
とたっくんは僕にコーヒを出した。
『最初で最後ってどう言うこと?ってか、ほんまにここどこなん?』
「座りなよ。あったかいうちに飲んでよ。」
言われるがまま、椅子に座りコーヒーを飲んだ。すごく苦かった。
『コーヒーありがとう。で、ここどこなん?ほんまに?』
「君の両親が再婚して、帰ってきたんだよね。君のことだから、両親に気をかなり使っているんじゃないかな?けど、大学からは一人暮らしするんでしょ?もう、両親のことは気にしなくてもいいんじゃない?君は君の人生を生きたらいい。生きているんだから。」
『え、どう言うこと?』
「僕がいなくたって、君はひとりで生きていけるよ。大丈夫。」
「最後に君に会えて嬉しかったよ、ありがとう。もう、いかないと。バイバイ。」
そう言って、たっくんは建物の奥の扉に向かった。
『ちょっと待って。』
僕は、椅子から立ち上がろうとしたが、立てない。
たっくんはふりかえらず歩いていく。
『ねぇ、待って!』
僕は、まだ椅子から立てない。
ようやく右足が椅子から離れた。。。

(ここで夢が終わる)
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(ここで僕が目を覚ます)

ガン!
『痛ったぁ』
机に右の太ももをぶつけた。
周りを見渡すと、実家の自分の部屋にいた。
外はかなり暗くなっていて、窓が開けっぱなしのため寒い風が部屋に入っていた。
『あぁ、そうか。勉強してたんだっけ。寝ちゃったな。寝汗がすごい。ひどい夢だった。』
眠気覚ましにいれた、コーヒーが冷めていた。
「ブーンブーン」(スマホのバイブ音)
母からメッセージがきた。今さっき、たっくんが亡くなったと。

夢でたっくんが会いに来てくれて、僕のことを心配して笑顔にさせてくれたことを知って、僕は涙をこらえることができなかった。
『最後まで、無理やり引きずり回しよって、たっくん!』
『僕は、僕は、僕の人生を生きていくよ!』(完全に決意したというより、揺らいでいる意志の中で絞り出した感じ)
僕は、冷めたコーヒーを勢いよく飲み込んだ。
コーヒーの苦味が口に広がるように、たっくんの言葉が心に広がった。