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away


そこにも雨は降っていて
歩道と車道を分かつ街路樹に
添えられるようにある煙草の空き箱にも
静かに滴は伝っていく

台風は勢力を強め北上中
コンビニの灯りのほかには
目ぼしい灯りもない
国道にも雨は降るだろう

スウェットに両手を突っ込んだまま
空を睨む男の向こうに
廃工場の影だけが見える
帰る場所などどこにもない
そうだろう
トラック一台過ぎていく

そこにも雨は降っていて
見上げると
歩道橋の向こうには
立ち並ぶビル
マンションの灯り
あの日から遠く離れた
その向こうを静かに電車は過ぎるだろう
帰る場所などどこにもないと
そうだろう
立っていた場所を故郷と呼ぶのなら
逃げるよりほかない
言葉だけが残されては
立ち尽すこの都会のアスファルトにも
激しく雨は降るだろう


一方井亜稀詩集『青色とホープ』
七月堂発行

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