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ばばさ菓子研究ノート

去年からばばさ菓子への興味が盛り上がって、自分なりに研究している。

ばばさ、というのは私の住んでいる地域のややディープめな田舎で「おばあさん」を指す言葉だ。私が10代か20代だったある日、実家のお菓子の棚をみていたら母に「今はばばさ菓子しかねぇよ」と言われたのだ。棚にはかりんとうだったか、甘納豆だったかがあったと思う。

ばばさ菓子という言い方も、母の職場の同僚が使っていた言葉らしいので、なにかオフィシャルの呼び名というわけではないが、なんだか気に入ってしまい、おばあさんが好きそうなお菓子は「ばばさ菓子」と呼ぶようになった。

大体のスーパーのお菓子売り場には、スナック菓子、各種チョコレート、グミ、森永や東ハトの箱入りクッキーなどのメインどころの棚、その次にブルボンのルマンド大袋やお得用チョコレート菓子なんかの大容量商品の棚、おせんべいやナッツなどのおつまみ系の棚、そのさらに奥くらいに、お年寄りの好みそうなお菓子を取り揃えた棚があると思う。そこにある感じのお菓子を「ばばさ菓子」という認識だ。


私は大学卒業後東京で10年くらい働いていたけれど、数年前実家に戻ってきた。東京での暮らしの後半数年間は、めちゃくちゃお菓子を食べていた。毎週末好きそうなケーキ屋があれば行って、併設の喫茶室で食べたりするのがいちばんの楽しみだった。地元にもおいしいケーキ屋はたくさんあるけれど、なにせ車で行かなくてはならない。東京にいた時のように一人で気軽に、という気持ちにはなかなかなれず、お菓子に対する欲が燻ってしまい、今振り返ってみるとスーパーやコンビニで新発売のお菓子をしつこくチェックすることで欲をなだめすかしている感すらあった。

そんなある日、スーパーのお菓子売り場を見ていて、ふといつも見ている棚の裏側に回ってみた。ばばさ菓子だ!!と思った。昔ながらの真っ白い、ただ甘い落雁アソート。角切りにされた寒天菓子。(よく「おばあちゃんちにあるまずいゼリー」と言われてるあれ)ブッセ、どら焼き、カステラ。でもよくみて見ると、食べたことのないものや、見たことのないもの、あれ、これもばばさ菓子なの?と思うようなものもある。これは、私がまだ知らないお菓子ジャンルなのではないか。

そんないまのばばさ菓子のシーンを東京に住む友達に話してみたら、意外にもおもしろがってくれて、「エコルセって、デパート菓子界のばばさ菓子じゃない?」と新たな視点の意見をくれた。エコルセ、確かに「同世代の友達のプレゼントに何か気の利いたおしゃれなお菓子を」と思うときにはまず贈らないけれど、たまにご年配の方からいただいたりして食べるとなんとも美味しい、地味だが確実にうれしいお菓子だ。

そこで気を良くした私は、その友達が開いてる総勢20人くらいが集まるホームパーティにばばさ菓子を持っていくことにしたのだ。新潟のスーパーでよりすぐったばばさ菓子数種類。都会の女性たちイチおしの持ち寄りデリや素敵なお菓子がたくさん集まる場なので、こういう変わり種があっても最悪一部の人にはウケるかもしれない、というセコい思惑はあった。

でも意外にも、なごやかでワイワイとした場だったからか、ばばさ菓子はけっこうウケたのだ。「懐かしい!!これ食べたことある!」「あーサラバンド!おいしいよね!」「初めて食べたけどこれおいしい」「小さいどら焼き、サイズがちょうどいいですね」「なんだろうこれ……何味?」と、みんな楽しんで食べてくれた。どちらかというと初対面の人と話すのが苦手な私も、ばばさ菓子の説明などをしていると、自然と人と話せる。

ばばさ菓子で成功体験めいたものを得てしまった私は、さらに気を良くしてばばさ菓子をチェックし、食べるようになった。ばばさ菓子の寒天菓子がよく「おばあちゃんちにあるまずいゼリー」と言われるように、コンビニで売っているような第一線のお菓子のくっきりとしたバターやチーズの風味、エッジの立ったチョコレートや抹茶味、酸味や香りの効いた濃い果汁感などに慣れていると、おいしいと感じにくいものも多い。でも、中には「地味だがかなりおいしい」「現代的なおいしさとは違うけどいい感じ」というお菓子もかなりあるな、と思っていて、そんな感じを紹介できればなと思っている。いまのところ「ばばさ菓子」はどこからどこまでか、というようなこともややフワフワしているけれども、書いてるうちに掴めてくるのではないかな……とか思ったけれど別に掴む必要なんてないか……

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